しかし、中小企業緊急雇用安定助成金を含め、助成制度の縮小や廃止は、制度の恩恵を受けていた社員の大量失業をもたらすだけではない。前出の自民党政調関係者がいみじくも指摘したように、日本の経済と繁栄を支えてきた、中小零細の製造業の息の根をも止めてしまうのである。
同じく助成制度を利用してきた首都圏の部品メーカーのベテラン経営者は、
「実は助成金制度のキモは、支給される助成金そのものにあるわけではない」
と前置きしたうえで、次のように指摘するのだ。
「中小零細企業にとって、確かに助成金はありがたいですよ。しかし、それは一時的なものでしかありません。ウチのような部品メーカーに限らず、製造業の場合、助成金制度によって、熟練の技を持つ社員を解雇することなく、ノウハウを温存できる点が重要なんです。要するに、技術の伝承ですよ。助成制度をうまく活用することで、業績が悪化した時には熟練の社員に一時休業してもらい、業績が好転したらまた彼らに再登板してもらうことができる。モノ作りに携わる経営者は皆、こうして知恵をしぼっているんです」
つまり、助成金制度が縮小、廃止されれば、熟練の技術やノウハウを持つ貴重な人材が次々と解雇の憂き目にあい、そのあとに景気が回復したとしても、今度は人材枯渇で企業そのものも倒産や廃業に追い込まれていく。その結果、世界に冠たる中小零細メーカーが、日本から姿を消していくことになるというのである。そして、このベテラン経営者もまた、語気を強めて次のように憤怒するのだ。
「サービス産業にケチをつける気はありませんが、モノ作り産業の場合、ハンバーガーショップの店員からコンビニや携帯ショップの店員に転職するようなわけにはいかないんです。しかも技術は日進月歩。仮に会社が続いていたとしても、サービス産業に流れてしまった熟練の社員が戻ってくる場はないんですよ。これのどこが『再チャレンジ』なんでしょうか!」
もともと安倍総理が口にし想定する「再チャレンジ」は、日本の経済成長を阻害しているモノ作り産業などの斜陽産業をマーケットから追い出し、同時に斜陽産業で働いていたサラリーマンをサービス産業などの成長産業に移行させることを主眼としている。
当然その場合、転職を強いられたサラリーマンの年収は半分以下に激減し、その身分も正社員から「準社員」という名の、体のいいアルバイトに転落していく。脱サラして起業し華々しい成功を手にするという、喧伝されている夢物語とは似ても似つかない現実なのである。
◆ジャーナリスト 森省歩