雇用調整助成金も中小企業緊急雇用安定助成金も対象期間は1年で、継続支給を希望する場合は1年ごとに条件確認が行われる。休業と教育訓練については1年間で100日、3年間で300日の支給限度日数が定められているが、教育訓練については事業所内の場合は1人につき1日1000円、事業所外の場合は1人につき1日4000円が支給額に加算される仕組みもある。
さらに、社員を解雇しない事業主に対しては助成率の上乗せも行われてきた。上乗せは雇用調整助成金の場合が3分の2から4分の3へ、中小企業緊急雇用安定助成金の場合が5分の4から10分の9へと増額される仕組みとなっており、この2つの助成制度が「雇用維持の最後の砦」と呼ばれてきたゆえんにもなっているのである。
アベノミクスはこの最後の砦に総攻撃をかけようとしているのだが、では砦が落城した場合、具体的にどんな事態になるのか。
「東日本大震災の復興特需の影響もあって、助成制度の利用者数は一時的に減少したんですが、雇用調整助成金の場合、ピーク時には200万人を超える解雇予備軍がこの制度で食いつないでいたんです」
こう語るのは、都内で金属加工関連の町工場を経営する二代目若社長。例に漏れず、若社長の町工場も長引く業績不振から、最後の砦たる雇用調整助成金の世話になってきたという。この二代目社長が続ける。
「ウチの場合、1年の対象期間を更新する形で、雇用調整助成金を利用してきました。助成を受けるため、ようやく入った大量注文があっても、助成対象となる社員をまる1日休ませたり、短時間の一斉休業を実施したりしました。それも助成金支給の条件になっているため、しかたありませんでしたが、雇用調整助成金制度が縮小されたり廃止されたりしたら、その時は完全にお手上げ。ハッキリ言って、親父の代から仕えてくれた社員のクビを切らなければならないでしょう」
この二代目社長はまた、安倍総理が制度廃止へ向けた第1弾として画策している支給条件の厳格化にも危機感をあらわにしつつ、こう吐き捨てるのだ。
「今でも売上高か生産量が10%ダウンしなければ条件クリアとならない。この条件が仮に15%や20%にまで引き上げられるとすれば、制度を利用する前に工場のほうが倒産しているでしょう。安倍さんは『再チャレンジ可能な社会』などと言っていますが、私はとてもではないが、クビにした社員にそんなことは言えません。アベノミクスが聞いてアキレますよ」
◆ジャーナリスト 森省歩