「今年の仕事でいちばん疲れたな。さすがに1日でお笑いと歌はきついな」
大晦日、国民的娯楽番組「紅白歌合戦」で歌手として「浅草キッド」を歌い終えた殿は、楽屋へ戻ると冒頭の言葉を漏らしたのです。
で、この日の殿は、歌の出番前に、最近ではすっかり浸透した、大変ブラックな賛美を勝手に贈る、あの“表彰状芸”を披露していたため、まずはお笑い、その後に歌手という流れだったため、さすがの殿も「今年いちばん疲れたよ」発言が飛び出したのです。しかし、改めて殿の“生・浅草キッド”最高でした!
で、少し時間を戻します。
18時半、NHKホールに入った殿は、楽屋でわたくしを認めると、
「よく考えたら、お前が大晦日にNHKにいるってのも笑うな」
と、笑顔でツッコんできたのでした。確かに!
で、楽屋に入り上着を脱いだ殿は「そうだ。とりあえずこれ見とかねーとな」と、大きな独り言を漏らすと、あらかじめ作成していた、この日読み上げる表彰状を手に取り、音読での練習を開始しました。そして2回程読むと、
「おい、ここちょっと直すか」
と、直前になって1カ所修正を入れたのです。表彰状の練習を終えると、今度は鼻歌で、音程を確認するように「浅草キッド」を歌いだし、何度もサビの部分をリフレインしていました。
で、表彰状&歌の確認を終えた殿は、おもむろに時計をチラッと見ると、
「俺の出番は何時だっけ?」
と出番を確認し、まずは20時過ぎという、予定されていた時刻を聞くと、
「じゃー出番の30分前にトイレに行って、それから着替えればいいか」
と、確認するように段取りを口にしました。ちなみに、殿がこういった感じで、少し先の行動を改めて口にする時は機嫌がいい時です。
で、楽屋にて殿が待機している間にも、嵐の櫻井さん、松田聖子さんなどが続々とごあいさつにやってきます。さらに、殿がトイレへ行こうと楽屋を出ると、五木ひろしさんに遭遇。この時のやり取り最高でした。
殿 あっ、今日はどうもすいません。
五木さん 何言ってるの。歌、楽しみにしてるよ。
殿 いえいえ、もう最低なんで。聴かないでください。
さらに、トイレを済ませ、楽屋へ戻る途中、今度は石川さゆりさんとも遭遇。ここでも「ヘタなんですいません」的な発言をしていました。で、楽屋へ戻ってきた殿は開口一番、
「何気に俺は石川さんの前荷がいちばん長かったからな」
と、昔を懐かしむようにこぼしたのです。ちなみに「前荷」とは? ショーの前座で漫才をすることであり、前座の漫才師はショーの前日、荷物と一緒に会場に入るため「前荷」と呼ばれていたと聞きます。殿は漫才ブーム前夜、さまざまな演歌歌手の前座を務めたのですが、石川さゆりさんの前座が、いちばん長かったそうです。次回に続く。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!