前回からの続き。去年の大晦日、紅白歌合戦に歌手として出場し、持ち歌「浅草キッド」を歌い終えた殿は、NHKホールの舞台から楽屋へ戻る道すがら、
「2カ所ぐらい歌の入り間違えたな」
「後半ちょっと突っ込んじまったな(伴奏より早く歌ってしまったこと)」
と、しきりに反省の弁を口にしていました。楽屋に戻ってからも、
「ダメだな。お笑い芸人の癖でよ、漫才やったあと、ウケなかったとこばっかり気になるのと一緒で、歌も『あ~あ、そこがダメだったな』なんて、ついそっちばっかり気になっちまうな」
と、引き続き、反省モードで振り返っていました。
そんな殿に「殿、ツイッターじゃ〈たけしの『浅草キッド』で泣いた〉〈たけしの歌、やばかった。感動した!〉〈たけしの歌にグッときた〉等々、絶賛の嵐で、お祭り騒ぎですよ」と、ツイッターのタイムラインにあがる賞賛のツイートの一部を報告すると、
「あっ、そう? たけしの歌で泣いたって? 書いてあんの?」
と、まるで他人事のような感想をまずは漏らすと、
「何? 俺の歌で泣いたって? それ、歌がヘタすぎて見てて情けなくて泣いたんじゃねーか?」
と、しっかりとボケを入れて続けるとさらに、
「大晦日に嫌なもん見たって、みんなあきれてんじゃねーか?」
と、得意の自虐ボケを加速させたのです。
ちなみに、一時ツイッターのトレンドに〈たけしの浅草キッド〉が入ってくるほど、殿の出番は大変な話題となり、とにかく〈感動した〉〈泣いた〉といった言葉が飛びかっていました。
さらにちなみに、紅白の翌日、松村邦洋さんから電話があり、「北郷君、昨日の殿の紅白、最高だったね。感動したね」といった感想を、なぜか殿のものまねで頂きました。
話を紅白の楽屋へ戻します。NHKさんに勝手に読み上げる表彰状、そして、歌手として出番を終えた殿は“とにかく無事に終わってホッとした”といった感じで、着替えを済ませてイスに座ると「あとはもう最後にちょっと出るだけだから、楽でいいな」と、一気にリラックスムードで、最後の出番を待ちながら、楽屋のモニターで紅白を堪能していました。
そしてオーラス、紅白恒例の得票集計をするところで、明らかにおかしな瓶底メガネをかけ、首から双眼鏡を下げた殿が、野鳥の会に交じり登場。最後は歌手でなく芸人として、この日3度目の出番を果たし、殿の紅白は無事、終了となりました。で、年が明け10日程して殿に会うと、
「紅白の効果はすごいな。俺んとこ(事務所ね)に『紅白見ました。たけしさんは若い頃、苦労されたんですね』なんて手紙と一緒に、米と食べ物が送られてきたよ」
と、見事なオチのついた“オイラの紅白出演裏話”を披露し、20年のお仕事をスタートさせたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!