1月24日に開催される春の選抜高校野球の出場校選考会。昨年の秋季大会の成績をもとに決定する出場枠のほかに、特別に出場することが認められるのが「21世紀枠」だ。
この21世紀枠、部員不足や練習環境の不備などの困難を克服したチームや文武両道で他校の模範となるチーム、ボランティアなどでその地域に貢献したチームなど、野球以外の要素を選考条件に加えた特別枠のことである。さらに、原則秋季都道府県大会で16強以上(加盟129校以上は32強以上)の成績を収めていることも条件で、今回は
北海道=帯広農、東北=磐城、関東=宇都宮、北信越=敦賀、東海=近大高専、近畿=伊香、中国=平田、四国・城東、九州=本部の9校が候補に選ばれた。
この中から、北海道から東海までの東日本で1校、近畿から九州までの西日本で1校、そして地域に関係なく1校選出されることになっている。
まずは東日本。各校の主な推薦理由は、帯広農が「北海道十勝地域の農業の担い手を育成」。磐城が「東北大会開催中に台風19号で被災したにも関わらず、2勝を挙げ、ベスト8の成績を残した」。宇都宮が「部員わずか19人で秋の県大会ベスト8進出」。敦賀が「手作りの狭いグラウンドで練習を工夫し、北信越大会8強入り」。そして近大高専が「近年戦力が安定し、秋の東海大会にまで出場」。この中では帯広農は昨年の朝ドラ「なつぞら」(NHK)の舞台だった地域という話題性があり、近大高専は“高専初の甲子園出場”という期待がかかっている点で注目されている。
だが、大本命は磐城だ。なんといっても同校は1896年開校と県内きっての歴史を誇る名門校であり、さらに71年夏の甲子園では“小さな大投手”と呼ばれた右腕・田村隆寿の活躍で準優勝を果たしている。今回選出されれば“古豪復活”という話題性があるのだ。また、地元・いわき市は台風の被害に見舞われたが、地域のために貢献した点も併せてアピールポイントは多く、東日本からはこの磐城が選出されると見ている。
次に西日本。各校の主な推薦理由は伊香が「豪雪地帯にあるため、冬季は除雪などで地域に貢献。また、地域住民で作る“体育後援会”との積極的な交流が評価された」。平田が「野球人口拡大のために実施している野球体験会が中国地区各地に普及しているだけでなく中国大会でも自身が8強入りした」。城東が「県内屈指の進学校で部員数も少人数ながら創意工夫した練習で四国大会のベスト8まで進出し、まさに文武両道のお手本ともいえる」。そして本部が「編成整備計画で統合が健闘されたことがありながら、秋の県大会では全国大会常連の強豪・沖縄尚学に善戦した」。
この4校の中では地区大会の実績も加味して考えると平田と城東の一騎打ちという構図だろう。ただ、前回の大会でも徳島県の公立校・富岡西が21世紀枠で選ばれている点が城東にはマイナスか。同一県から2年連続21世紀枠で出場校が選出されたケースは過去に5例あるが、その内の1つが徳島県だ(2010年の川島⇒11年の城南)。さすがに2度目の2年連続は「?」だろう。
逆に平田にはこんな追い風の要素が。実は同校は15年と19年の過去2度、中国地区から推薦されたものの2度とも選外となり、21世紀枠の補欠校に終わっているのだ。あと一歩で甲子園ながら、チャンスを逃し続けているチームを別枠で選抜に出場させるというのも21世紀枠の趣旨の1つ。となれば、平田にとって三度目の正直となる今回、吉報が届くのではないだろうか。
では、最後の1枠はどうなるのか。地区大会の実績からは敦賀と近大高専、そして城東が有利となる。ただ、敦賀はこれまでに春夏合わせて計21回の甲子園出場経験があり、城東は前述したように徳島県から2度目の2年連続選出となってしまう。一方で近大高専は“高等専門学校初の甲子園出場”という話題性があるうえ、部員全員が部活と学業を両立して資格取得目指している点も大きなアピールポイントとなっている。唯一の不安はこれまで21世紀枠で出場した私立校がわずか1校という事実。そして、過去に選出されたチームには県大会で敗退して地区大会に進出していなかったケースも意外と多く、そうなると浮上してくるのは伊香。
伊香は練習環境が困難だという面は敦賀も同じだが、実は伊香には140キロの速球を誇るプロ注目右腕の隼瀬一樹投手がおり、彼を中心にした高い守備力で県大会ベスト4進出を果たした点が評価される可能性が残されているからだ。前回21世紀枠で選出された石岡一(茨城)が県大会敗退組ながら、やはりプロ注目のエース・岩本大地の存在が注目されたことも見逃せない。さらに、近畿地区は今回、一般枠では滋賀と京都からの選出が絶望的な状況にある点も伊香には追い風だ。最後のイスを巡っては近大高専VS伊香の争いで、やや近大高専有利とみる。
果たして歓喜に湧く高校はどこだ。
(高校野球評論家・上杉純也)=文中敬称略=