春の選抜は夏の選手権と違い、1都道府県1代表制ではない。秋の地区大会の成績などをもとに地区ごとに出場枠を振り分けたのちに各地区の選考委員が出場校選抜し、招待するのが“春の選抜”である。そしてもう1点。“部員不足、練習環境の不備などの困難を克服した学校”や“ボランティアなどの地域貢献で他校の模範となった学校”を選出する、いわゆる“21世紀枠”である。01年の第73回大会から設けられ、当初は2校が選出されていたが、現在では3校枠が定着している。
今年の選抜では、その21世紀枠で選ばれたチームが大会2日目に2校登場する。第2試合の多治見(岐阜)と第3試合の中村(高知)だ。前者は報徳学園(兵庫)、後者は前橋育英(群馬)という共に甲子園優勝経験のある強豪校との対戦。両校とも秋は地区大会まで進出したものの、いずれも初戦で敗退。実力的には形勢不利と目されている。
事実、昨年の大会終了時点で21世紀枠の初戦の成績は15勝30敗。3校に1校しか初戦を勝てない計算になるワケだ。通算成績も19勝45敗。初戦を突破しても2戦目の壁が高いようである。
だが、そんな21世紀枠出場校の中で堂々のベスト4まで勝ち進んだチームが2校ある。01年の宜野座(沖縄)と09年の利府(宮城)だ。宜野座は初戦で岐阜第一を7対2で降すと、桐光学園(神奈川)を4対3、浪速(大阪)を延長11回のすえ4対2で振り切ってベスト4へ進出。準決勝ではこの大会の準優勝校となる仙台育英(宮城)の前に1対7で完敗したが、堂々の大健闘ぶりを見せつけた。ちなみに宜野座はこの年の夏の選手権で沖縄代表の座を勝ち取った。甲子園では初戦でまたも仙台育英と対戦。今度は春の時に負けたスコアの7対1でリベンジを果たしている。
一方の利府は初戦で掛川西(静岡)を10対4と圧倒すると習志野(千葉)を2対1、早稲田実(東京)を4対1で撃破。ともに甲子園優勝経験校だけに当時、大きな話題となった。準決勝ではこの大会ナンバーワン左腕との呼び声高い菊池雄星(現・埼玉西武)擁する花巻東(岩手)の前に2対5で惜敗したものの、その実力がフロックではないことを高校野球ファンに知らしめたのだった。
多治見と中村。ともに相手は甲子園常連の強豪校だが、一泡吹かせる活躍を期待したい。
(高校野球評論家・上杉純也)