引退説、秋のフランス遠征白紙化──。ファン投票一番人気に推されながらも「肺出血」で宝塚記念を緊急回避した国内最強馬に、暗雲垂れこめる報道が相次いだ。ところが、である。暗雲どころか、あの球界のプリンスのごとく、驚異の「二刀流」復活プランが浮上しているというのだ。
戦前、史上最高の「4強対決」とあおられた宝塚記念のゲートに「主役」の姿はなかった。レース直前の6月13日、栗東トレセンでの1週前追い切りを消化後、オルフェーヴル(牡5歳)が思わぬ疾病に見舞われたのだ。息遣いが荒くセキなどの症状も出たため、獣医師による内視鏡検査を受ける。結果、運動誘発性肺出血が認められ、宝塚記念出走回避の決断が下された。
「あと1週間でベストの状態に持っていき、本来の走りをするのは不可能と見て、回避を決めました」
オルフェーヴルを管理する池江泰寿調教師は苦渋の決断をこう話す。一方でトレーナーは、
「ここで出走をやめたのは、状態が悪くなって引退に追い込まれないようにするため。(症状が)初期の段階なら、2週間休ませれば元のパフォーマンスに戻すことができる」
と強気だ。オルフェーヴルは15日、栗東近郊のノーザンファームしがらきに放牧に出された。競馬ライターの平松さとし氏が言う。
「息遣いが悪いからといって毎回、肺を調べるわけではありません。だからか、鼻出血ではないか、との噂が栗東トレセンで出ています。とはいえ、調教師の発表を信じるべきだとは思いますが‥‥。肺出血自体はあったとしても、これが即、競走生活にどうこうということではありません。ただ、癖になる可能性があり、ひいては鼻出血につながる危険性はあります。もし鼻出血となれば、1回目は強制的に1カ月の出走停止となり、そのあと、もし2回目の鼻出血があった場合、今度は2カ月の出走停止。最大目標とする凱旋門賞(10月6日・仏ロンシャン競馬場・芝2400メートル)に出るのは不可能となります」
凱旋門賞は世界最高の舞台と言われる国際GI。昨年、初挑戦したオルフェーヴルは2着に惜敗し、リベンジを期した今年は、このレース出走のために現役を続けてきた。
実は今回の肺出血に際しては、調教過程に首をかしげる声も上がっていた。栗東トレセン関係者が言う。
「あの馬は一回レースを使うと、たとえ1週間でも2週間でも必ず短期放牧に出ていました。気性の難しい馬なので、放牧に出すとテンションがやわらぐからです。それが今年は産経大阪杯(3月31日)以降、ずっと厩舎にいる。厩舎サイドは『いろいろ試したいことがあるから厩舎に置いている』と説明していましたが、3カ月もトレセンにいるのは変です」
大阪杯を使ってからスイッチが切れず、オンとオフの切り替えができなかったのか。栗東担当のトラックマンも首をかしげる。
「実は異変を感じていました。去年までは坂路調教が中心だった。軽い調教でも負荷がかかるからです。ところが、今回は坂路ではなく、平坦なチップコースを走らせていた。ここではきつく負荷をかけないといけません。速い時計をバンバン出すとか長く強く追うとか。肺出血にはその影響があったのかもしれません」