11年11月、元横綱の朝青龍から1億円を騙し取ったとして警視庁が男2人を逮捕するという珍事件があった。なぜ「珍」が付くのか。持ちかけた詐欺話があまりにも荒唐無稽だったからだ。
社会部記者が解説する。
「09年に、男らは『フィリピンに保管する金塊を溶かして、現金化したあとに1兆円をモンゴルに投資したい』と朝青龍に持ちかけたのです。だが、金塊を持ち出すために1億円が必要だとして、2回にわたり1億円を振り込ませた。その際、男らは『M資金』の運用を任されていると言って、信用させたのです」
この「M資金」とは狭義の意味では、第二次大戦後に日本が隠していた軍需品などの莫大な資産がGHQに接収され、極秘裏に運用されているという都市伝説の類いだ。この資金を管理すると称する人間が有名人や会社社長などに近づき、大金を持っていることをチラつかせ、ニセの融資話で逆に金を引き出そうとする詐欺が「M資金詐欺」だ。
手口が類似するものに、存在しない「100万ドル札」を使う詐欺、アフリカの政府高官から資金援助の知らせが届く「ナイジェリアの手紙詐欺」、他にも「徳川埋蔵金」や「山下財宝」などをチラつかせる例がある。さらには、最近では黒い紙に特殊な液体をかけると高額のドル紙幣に変わる「ブラックドル詐欺」も存在する。
これに踊らされた被害者の中には、全日空、富士製鉄(現・新日鉄住金)、日産、大日本インキの役員などの財界人の名前もあれば、78年に猟銃自殺した俳優の田宮二郎、国民的歌手グループ「フィンガー5」の元リーダーなどの芸能人もいる。
パターン化された詐欺になぜ引っ掛かるのか。前述のように、手口を巧妙に変え、自称・宮家や政治家秘書など“それらしい”人物が騙す側に加わることもある。
さらに、詐欺事件に詳しいジャーナリストの山岡俊介氏はこう付け加える。
「M資金では、あろうことか外務省のキャリアまでが引っ掛かったこともありました。企業役員や有名人などの大物であればあるほど、自分が大物だからこんな話が来るんだと勘違いしてしまう。現在、元スポーツ選手や芸能人など、多くの有名人が出資したものの配当が滞って事件化しそうなファンド投資詐欺を追っていますが、有名人は生活の浮き沈みが激しいのも騙される一因でしょうね」
世事に疎い芸能人は詐欺師にしてみれば、いちばんチョロい存在なのかもしれない。