「しかし、参ったな。しばらくはどうにもなんねーだろ」
つい先日、一向に終息する気配のない新型コロナウイルスの影響で、去年は3回開催した「ビートたけし“ほぼ”単独ライブ」の予定が今年はいまだまったく立てられない状況となり、殿は嘆くように楽屋で冒頭の言葉を漏らしたのです。
わたくしも、おまけとはいえ“殿と一緒の舞台に立てる”夢のような時間を奪われ、心底残念でなりません。で、殿はさらに、
「だけど、家にいてもテレビ見りゃ~コロナばっかしだし、さすがに気が滅入るな。それで小説なんか書こうと思ってやり出しても、こんな状況じゃ、書く気が湧かねーんだよな」
と、嘆きを続けたのです。ただし、嘆いてばかりで終わるはずもないのが殿です。
「だけど、あれだな。これが終息したら、ライブでもいろいろできるな。防護服のかっこで出て行ったりよ、ふざけたことやりてーな」
と、コロナ撲滅後には、“さっそくいじり倒して笑かそうぜ”といった意気込みを一気に明るいトーンで語り、その場の空気を一変させたのです。この時、“もうコロナの話は終わり”といった殿の意向に沿うため、思いっきり雑に話題を変える形で、「殿、まだネットフリックスで映画を観てるんですか?」と、殿が最近ハマッていることについて尋ねてみると、
「おう、あれ観たよ。黒人が白人の家に連れてかれて、むりやり白人の脳を黒人に移植させるやつ」
と、例によって“シンプルだが、その説明で十分わかる言い回し”で「ゲット・アウト(2017年公開)」を観たと教えてくれたのです。そして、
「けっこうブッ飛んだ話だったけど、あれよ──」と、かなりしっかりとした“ビートたけしの「ゲット・アウト」評”をひと通り語り尽くすと、
「だけどメジャー(MLB)も延期で、バスケ(NBA)も中断だろ。もう、家いても映画くらいしか観るもんねーし、困ったな」
と、海外のスポーツは基本、時間があえば必ず観る殿は、今一度コロナ禍への嘆きを持ち出すと、
「だから、もう決めたんだよ。仕事ねー時は酒飲んで、一切体のことなんか考えないで、好きなもん食って飲んで、ストレス溜めねーようにしてやろうかと思って。どうせこっちは70過ぎだし、もうあとはいつ死んでも関係ねーんだから」
と、近年はっきりと減っていた飲酒行為を「また昔のペースに戻すぞ」宣言をしたのです。そんな殿の発言を聞いて、その昔、浅草修業時代の殿とよく一緒に飲んでいた石倉三郎さんにお会いした時に「たけちゃんのすごいところは開き直り」とおっしゃっていたことをなぜか思い出し、同時に〈殿、こちらはコロナに関係なく、だいたい暇ですから、お酒を飲む時はぜひ誘っていただけないでしょうか〉とずうずうしい願いを心の中でしっかりと念じたわたくしだったのです。殿、お待ちしております。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!