「こりゃまた、遠いな」
5月某日、テレビ収録のため楽屋へ入った殿は、楽屋内でいつも座るソファー、そしてテーブルを挟んでかなり離れた位置に不自然な配置をされたイスを見て、こんな言葉を漏らしたのです。当然ですが、今、楽屋の応接セットもコロナによるソーシャルディスタンスな距離が義務付けられていて、そのため、おのおのが離れたイスに座っての本番前の打ち合わせは、かなり滑稽なことになっています。
まず殿に対し、対面の遠く離れたイスに座ったディレクターが、進行台本を読みながら内容を説明。で、要所要所で何度も、進行台本とは別に用意された各コーナーの資料をその都度、立ち上がって素早く殿に近づいては真ん前のテーブルの上に置いていきます。
わたくしには、資料を届けるこの動作の繰り返しが、最近めっきり見かけなくなった、バカでかく長いしゃもじで料理を提供する“炉端焼き屋の動き”に見えて仕方なく、ついニヤけてしまいます。そんな打ち合わせを終え、「よし、ちょっとトイレ行って着替えるか」と、殿がいつものように次の行動を口にしてトイレへと立つと、わたくしもこれまたいつものように、殿の後に続き、トイレへと同行します。で、この、トイレへの行き帰りの短いスパンに殿と交わす雑談の中に、こちらの連載のネタになる“金言”が溢れていたりします。例えば、
「おい、こないだ○○さんから、やたらいいつまみが送られてきたから、来週あたり、おれん家で宴会やるか(今はコロナ禍で、こういった宴会は全て中止になっています)!」
「あれだな。次のライブはよ、野外でオールナイトでやるか!」
「お前がやってる、俺の連載(こちらの連載)は好調か?」
等々、とにかく、当連載にそのまま書けるような“ナイスな金言”が過去、飛び出しています。で、この日もトイレへ行く道すがら、
「ま~仕方ねーけど、あー離れての打ち合わせってのも何だかな。炉端焼きじゃねーんだから、いちいち遠くてやりづれ~な」
と、ついさっき、わたくしが心の中で面白がっていた遠距離スタイルの打ち合わせについて、まさか同じ見立ての「炉端焼き」を用いて嘆いたのです。最後に、8年程前、こちらの連載が始まる直前、トイレ前で殿と交わした会話をどうぞ。
「殿、来月からアサヒ芸能で、殿のことをあれこれ書く連載をやらせていただくことになりました」
「へ~。それはあれか。お前がいつもライブなんかでやってる、俺がこんなこと言ったとか、あんなこと言ったとか、笑ってるやつか?」
「はい。殿の珍言や名言を諸々まとめて、書いていこうかと思います」
「毎週か?」
「はい」
「じゃーよ、それ、俺がいかにスケベでダメなヤツか、しっかりと書くように!」
これですから、殿とのトイレ同行行脚は辞められません。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!