「三又師匠、今日の収録は面白かったですね。僕はあんな感じで大丈夫でした?」
つい先日、“弟子ではないが、20年以上も殿の近くにいて、弟子以上に殿から何かとツッコまれ、いじられ、果ては北野映画にも出演している不思議な男・三又又三さんにインタビューをする”という仕事があり、改めて「殿との思い出」を聞いてきたのですが、これが大変面白く、興味深いインタビューでした。
で、そんな三又さんの“たけし語り”の中で、つくづく感心した話が、冒頭の言葉を用いて殿が三又さんをヨイショした日のエピソードです。何でも、三又さんが殿のレギュラー番組「家庭の医学」に出演した際、殿の気遣いのおかげで、自分でもびっくりするくらい調子がよく、終始、ウケたまま収録が終わったといいます。すると、殿からお寿司屋さんへの誘いがあり、そこで殿は「三又師匠!」と三又さんを褒めては持ち上げ、その日の収録を振り返ってくれたそうです。
このエピソードを聞いた時、わたくしは心の中で、以前、殿のマネージャーから知らされた「わたくしに関する殿の発言」を思い出していました。説明します。
3年程前、殿がゴルフ番組に出場すると“わたくしの母の再婚相手のお兄さん”という方が偶然、その番組に出場していて「失礼ですが、たけしさんのお弟子さんに北郷さんって方がいませんか? 実は彼、私の弟と再婚した人の息子さんなんです」と少々込み入った関係を告げられると、殿はすぐさま、
「はい、いますよ。北郷は私の番組の作家をやったり、本を出したり、今じゃすっかり出世して、大したもんですよ」
と、恐ろしく気を遣った発言をしてくれたそうです。
確かにわたくし、本を出版しましたが(こちらの連載をまとめた「たけし金言集」)、それも殿の本だからこそ出版できたわけであり、殿の番組の作家をやっているのも当然、殿の推薦があってのことであり、全て“ビートたけしの弟子である”といった立場だからこその今の仕事ぶりです。それを殿は、知らない人が聞いたらまるで“仕事ができる弟子”といった感じに、わたくしを評してくれたわけです。
「弟子にそんなこと言われたくねーや!」と、きっと殿はツッコむことだと思いますが、本当に殿は「心底優しい人間」であると、痛切に感じます。
最後に唐突ですが、天使のように優しい殿もいれば、悪魔の殿もいます。
以前、フランス人にインタビューを受けた殿が「オイラの弟子の話」として、「三又ってヤツは元孤児、みなしごだった」。わたくしに至っては「北郷って弟子は、家族で北朝鮮から逃げてきた脱北者で、さんざん苦労して俺の弟子になった」と、少しばかり笑いながら答え、その冗談を真に受けたフランス人が“真実”として思いっきり本に書いて出版してしまったことがありました。つくづく殿は“お笑い悪魔”です。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!