《「痛い!痛い痛い痛いーっ!やめてください!もう……もうあたし、ムリです!!」
挿入シーンになるとあそこに激痛が走り、あたしの目の前に火花が爆ぜた》(本書より)この強烈な書き出しではじまるのが元人気艶系女優の蒼井そらをモデルとした小説「夜が明けたら 蒼井そら」(藤原亜姫著/主婦の友社)だ。
現在、日本の成人女性の20人に1人がいわゆる「夜の世界」で働いているという統計がある。「いつか出口を見つけたい」「夜を上がって昼間の仕事に就きたい。でも不安で前に進めない」…そんな女性たちを勇気づけ、背中を押すことができるのではないか。そんな思いで出版社で企画され、実話を元にストーリー化したという。著者の藤原亜姫氏は、2008年にケータイ小説史上空前のアクセス数を誇った「インザクローゼット blog中毒」(河出書房新社)で作家デビュー。人間の弱みや闇を独自の視点で痛快な物語に変えることで定評がある。
物語は、モデルとなった蒼井の半生を丹念に描いていく。新聞販売店経営の両親と姉、2人の兄、妹の7人家族。学生時代にタレントに憧れテレビの世界で働きたいと夢を抱き奨学金で高校・短大に通学。バイトに明け暮れていた。短大時代に渋谷でスカウトされたことがきっかけで艶系ビデオの世界へ。初めての撮影時に感じた風景、母親に艶系女優になると報告したエピソードが描かれている。
デビュー後ほどなくして人気は爆発し、2年後にはテレビにも進出。番組共演がきっかけで知り合った男性との交際が始まる。しかしその男はモラハラ男と化し、私生活は暗転。仕事も“カワイイ子”たちが続々デビューし、蒼井のスケジュールにも空白が目立つように。そんな折、蒼井は撮影現場で原因不明の“痛み”に襲われる─。
そのどん底から這い上がる転機は、Twitterをはじめたことだ。コメント欄が中国語で埋まった蒼井は中国への関心を深めていく。ある日、中国で行われるモーターショーにゲストとして呼ばれた彼女は、ファンの多さに驚きながらも「ここにいる人たちは誰も、あたしを脱がそうとしていない。もちろん脱いだAV女優のあたしを知ってるはずだけど、裸じゃないあたしを求めてくれたんだ」と感謝し、中国語の猛勉強を開始するのだ。
そして現在、中国でもタレントとして活動し、中国版Twitter・weiboではフォロワー数1900万人超えを誇り、2018年1月に結婚し現在は双子の母となった蒼井。事実をもとにしたフィクション小説だが、つらい道のりばかり選びながらも、愚かしくもひたむきに走り続けた、彼女の葛藤の日々をドラマティックに活写した「夜が明けたら 蒼井そら」は、男女を問わず、読者に生きる勇気を与えてくれるはずだ。
(編集部)