この華やかで喜ばしい記録誕生で、近年まれな将棋ブームが勃発。コロナ禍で鬱屈する世情も相まって、これから藤井棋聖がどれだけ多くの新記録を塗り替えていくのかとお祭り騒ぎだ。「捕らぬ狸の皮算用」で憂き世を忘れてみたいのだろう。題して「藤井聡太8冠までの1000日計画」である。
8冠とは、将棋界にある8つのタイトル。賞金額順に序列があり、
「竜王(豊島将之/30歳)」
「名人(豊島将之/30歳)」
「叡王(永瀬拓矢/27歳)」
「王位(木村一基/47歳)」
「王座(永瀬拓矢/27歳)」
「棋王(渡辺明/36歳)」
「王将(渡辺明/36歳)」
「棋聖(藤井聡太/18歳)」
となる。賞金は竜王戦が4400万円。他は非公開。簡単に説明するならば、棋士が戦う棋戦は、挑戦者を決めるための予選(多くはトーナメント)を通過して、タイトル保持者と挑戦者が戦うタイトル戦(五番勝負か七番勝負、タイトルによって違う)で決着がつく。約160名のプロ棋士たちが、名誉と賞金を懸けて1局1局、指しているのである。
そして、7月16日に藤井棋聖が誕生したわけだが、彼は現在、王位戦の挑戦者でもある。木村王位からタイトルを奪うべく、「年の差30歳」七番勝負の真っ最中なのだ(2連勝中で、次は8月4─5日に第3局)。
ひとつひとつ挑戦しては奪い続け、はたして全冠制覇となるか。8つの中で最大の難関は、最も歴史が古い名人位である。挑戦者になる権利が参加棋士に毎年開かれている他棋戦とは違い、まずは上位10人の「A級棋士」にならなければ、挑戦のチャンスすらない。
藤井棋聖は現在、B級2組に所属。25人のうち上位3人に入れば、来期21年は「鬼が棲む」と言われるB級1組に。そこでも勝ち抜いて、連続昇級すれば、最速で22年に19歳でA級になる。映画「ブルースリー死亡の塔」のように、強敵を倒してはひとつ上の階へ、また倒しては上の階へ、1年ごとに登っていかねばならないのだ。
トップ10名の棋士が集うA級に昇格して、総当たりの最高成績をあげると、ようやく挑戦者になれる。そうしてパリ五輪の前年23年4月、いよいよ名人戦への登場となる。仮に4連勝でタイトルを獲得すれば6月頃には決着がつき、最年少記録20歳11カ月で「藤井聡太名人」が誕生することになる。その間にも順調に他のタイトルを獲得していることが前提で、棋聖獲得からおよそ1000日での8冠達成最速シナリオが完成する。ちなみに、現在、名人獲得の記録保持者は谷川九段で21歳2カ月(83年)である。