かつて巨人軍の長嶋茂雄監督は、18歳の若者に将来を背負わせるべく「4番1000日計画」をぶち上げた。その構想は実を結び、松井秀喜は日本を代表する4番打者として活躍。国民栄誉賞まで同時に受賞した。そして今、将棋界でも末恐ろしい、いや、すでに中心に躍り出た10代棋士の快進撃が始まったのである。藤井聡太棋聖、その無限の可能性を緊急連載でレポートする!
〈負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです〉
棋聖のタイトルを1勝3敗で失冠した渡辺明二冠は、翌日のブログにそう書き込んだ。30年ぶりの記録更新──。打ち立てた新記録は、17歳11カ月、史上最年少でのタイトル獲得だった。この時より、現役高校生プロ・藤井聡太七段は、藤井聡太棋聖となった。思い起こせば、プロデビューからの29連勝、「今日のお昼御飯は何食べた?」で沸いたのが2017年。3年足らずでトップ棋士の一角を崩し、ノンストップで上り詰めたことになる。
永世名人の称号を持つ谷川浩司九段が、
「中学2年でデビューした時から150キロ以上を投げていたが、球速も増して変化球も多彩になって、コントロールの精度もよくなった」
と評しているほどだ。
なるほど、棋聖戦では妙手を連発。特に第2局では、序中盤の構想で、定跡ならば守りに使う金を、グッと危ない戦場へ送り出す△5四金が飛び出して、対局者ばかりでなく、観客をも戸惑わせた。
かと思うと、その金の活躍で奪った銀を惜しげもなく、△3一銀と守りに使う。
「藤井七段は自分の玉の危険度の見切りが、きわめて優れているのではないか」
と若い棋士が評していたが、先を見越した「先行守備」で、勝ちを奪い取った名局だった。
この△3一銀は「コンピュータ(最強将棋ソフト『水匠2』)が6億局面以上読んでようやく推奨した手」と喧伝された一手。将棋ファンを超えて、一般人をも巻き込んだ。筆者は「もうこの先、AIに人間は勝てないかと思っていましたが、まだまだやれるじゃないですか。希望が湧きました。人間、まだまだやれるっすよ! 藤井くん、ありがとう!」と拡大解釈して酒場で興奮する会社員を目撃した。
プロ棋士は不必要な手をわざわざ読まないので、6億もムダ骨を折らない、という前提はあるにしても、
「23分考えてコンピュータを超えるすごい手を指した」
との話題が一人歩きし、語りぐさが生まれる。
もっとも、これには「ひふみん」の愛称で人気の元名人・加藤一二三氏が、
〈AIを過大評価する一方で、天才棋士の頭脳のきらめきやひらめきを、そもそも軽視しすぎの世の中ではないかと歯痒い想いがする〉
と自身のツイッターに書き込んで釘を刺した。
もはや、一手にそれくらいの影響力を持つ藤井棋聖。凡百には思いつかない手を指す爽快感を、のびのびと見せてくれての快進撃なのだ。