弱冠18歳の棋聖はまだまだ成長を続けている。プロ入り前から持ち合わせていた技術に加え、日に日に進化を遂げているのだ。初戴冠を手繰り寄せた「神の手」から繰り出される一手とは!?
予言はピタリと当たった。2017年、藤井聡太棋聖(18)がプロデビューから29連勝の新記録を作った時、週刊アサヒ芸能は「神の29手全解説」の袋とじ企画をお送りした。その際に「2年か3年後にタイトルを取るでしょうね」と予言したのが、監修を務めてくれた佐藤紳哉七段(42)だ。今回、あらためて佐藤七段に、最新の「藤井将棋」の魅力と凄みについて解説してもらった。
まずは「神の手」の正体からひもといていこう。神の手はどれくらいの頻度で出現しているのだろうか。
「報道のエスカレートもありますが、『神』まではいかなくても、一局に一度はインパクトのある手が出てくるのが藤井さんの将棋のすごいところです。対局者もプロですから、いくらいい手でも想定できることが多いのですが、ちょっと想像を飛び越えてくる手が魅力と言えます」
藤井将棋は全て見ているという佐藤七段が挙げた「ナンバーワンの神の手」は、棋聖戦第2局で渡辺明棋聖(当時)相手に中盤の難所で指した「3一銀」だという。指されたらどんな気持ちになるのか、わかりやすくシミュレーションしてもらった。
「指された瞬間、アアアアアアア‥‥と決して狼狽しない手です。むしろ『ありがたい』と反射的に思ってしまう。それほど一見、すごい手には思えないんです。もっと厳しく攻めたてる手もあった局面で、持ち駒を自陣の一段目に打つ守りの手。『ああ、これならどうとでもなるだろう』と思って、こちらの手を探していくと『‥‥あれ? どうにもならないな。もしかしたら、いちばんいい手を指されたんじゃないか‥‥』という衝撃がじわじわと押し寄せてくるんです」
希望から絶望へと突き落とす「魔の手」というか、精神的にもダメージを与える手なのだ。
このインパクトの真髄は、その後の優勢を拡大する分岐点の一着となっただけではない。
「その一手で倒すという、必殺技みたいな派手なものではなく、とても地味な手なんです。意表を突く地味な手を指せるなんて!というのがショックなところ。ああ、今の藤井さんはもう何でもできるんだなと思いました」
神の手を指した先輩たち、例えば谷川浩司の「光速流」や、羽生善治の「羽生マジック」は、大向こうをうならせる華やかな手が目立っていた。対する藤井棋聖の「藤井マジック」は、高校生にしてなんとも奥深い、渋い神の手なのだ。