燃えろ、いい女! 燃えろ、ナツコー! 世良公則のシャウトがインパクトを放った79年の資生堂化粧品「ナツコ」のキャンペーン。小野みゆき(60)が、ユーモアたっぷりにナツコ秘話を振り返る。
「高校卒業直後が分岐点ですね。骨折して入院していたら、オーディションが最終選考まで終わっていたんです」
ならば、どうやってキャンギャルになったのか。
「事務所にたまたま資生堂の方がいらして、スタッフが私の写真を見せたら『オーディションはもう最終段階だけど、カメラテストに参加しなよ』と誘われ、途中参戦したんです」
ファッションに無頓着だった小野は、なんと「スクール水着」で挑んだ。
「周りは、すてきなハイレグ水着の細くてキレイなお姉さんばかり。一方の私は部活をやめて太り、入院中も差し入れ太りし、10キロ増量したうえでのスクール水着なので、その姿は女子プロレスラーそのもの。スタジオ入りした瞬間、スタッフたちがサーーッと凍りついたのがわかりました」
だが、それが功を奏した。ナツコのテーマは「自立した強い女性像」で、小野が持つ「静かな情熱を秘めた凛としたオーラ」こそ、必要とされていたのだ。
情報解禁に厳しい広告業界ゆえ、小野は家族にも選ばれたことを伝えられず、海外への長期ロケに飛んだ。
「なかなか撮り終えることができず、帰国は当初の予定から大幅に遅れた2カ月半後。親族女性と2人で住んでいたアパートに帰ると、部屋がなくなっていました」
親族は「みゆきちゃんが帰ってこない! 不良になっちゃったよ!」と確信し、アパートの部屋を解約してしまったという。小野はスーツケース片手に途方に暮れた。
さて、当時は化粧品会社のPR合戦が激化していた。
「私は知名度も人気もないけれど、『女性の自立』という新たな価値観が若い女性たちに刺さり、ナツコは資生堂で初めて品切れするほど売れたようです」
比例して小野の知名度も急上昇。それに困惑したのが、瓜二つの双子の弟だった。
「弟の格好はダサいんですが、いわゆるイケメンで。街中で『あ、ナツコだ! あれ? 男? えっ、なんで!?』と混乱を招きつつ指をさされまくり。女性にはモテたようで、『姉ちゃんのせいで普通の生活ができなくなった』とボヤいていました」
小野自身も「男性にはモテなかったけど」としつつ、甘酸っぱい記憶をたぐる。
「私は撮影の衣装替えなど、そばに男性俳優がいても躊躇なく脱いでインナー1枚になるんです。男性から見るとその行為は『恥じらいがない』と感じるようで。その反面、女性から好意を寄せられたことはたびたびありました。手を握られたりすると、誠意を持って接したいと思いつつ、どうしていいのかわからず焦っていましたね」
近年では、バラエティー番組「アウト×デラックス」(フジテレビ系)に、同番組の熱烈ファンとして出演。新たなファン層を拡大中だ。さらに7月24日から公開中の「クシナ」(アルミード、アップリンク渋谷より全国順次公開)で10年ぶりに女優復帰。男子禁制の村を束ねる村長を演じる。
「撮影はハプニングの連続でした。深夜に富士の樹海で撮影していたスタッフたちが、警官から職務質問を受けて叱られて。撮影当日に役者が来ないこともしょっちゅうで、スタッフが多忙すぎて、連絡が滞ってしまうんですよ。そんな時に代役で来てもらった『ヘアメイクさんのお友達のお母さん』が、役者顔負けの驚異的な演技力を発揮。奇跡が何度も起こりました」
ナツコから41年、あの胸に響く凛とした眼光を、スクリーンで確認されたし。