野球界における本塁打の象徴「世界の王」。その絶対的存在が残した大記録は半ば神格化され、およそ50年もの間、「聖域」として守られてきた。過去3人の「外国人挑戦者」を退けた姿勢はあたかも野球ファン、いや、日本人の総意であるかのように映ったはずだ。だが、その「呪縛」もついに終焉へ。猛烈な勢いで「聖域」に侵攻する外国人スラッガーをプロファイルする。
メジャーではパッとしなかった選手が日本へ来たとたんに大ブレイク。そんなケースは少なくない。今まさに球界の主役となっているヤクルトの主砲バレンティン(29)もそのパターンだ。
バレンティンがマリナーズでメジャーに初昇格したのは07年。09年途中にレッズに移籍するが、翌10年は3A暮らしだった。メジャー実績はわずか3年で、通算打率2割2分1厘、15本塁打と、数字的にはまるでパッとしない。メジャー特派員が話す。
「確かにマリナーズ時代から、当たれば飛ぶという面はあった。スラッガーとしては期待されていたけれど、とにかくバットに当らない。本塁打か三振か、というタイプです。結局、08年は出場71試合で79三振、09年も96試合で70三振と、三振率が非常に高い選手だったわけです」
パワーはあるのに確実性の低い打撃が原因でメジャーをお払い箱になり、10年オフにヤクルトと契約。11年は打率2割2分8厘と相変わらずだったが、31本塁打を放ち、来日1年目でいきなりセ・リーグ本塁打王に輝いた。
翌12年はケガなどで一時戦列を離れ、106試合の出場にとどまったものの、31本塁打で2年連続キングの座に就いている。これは規定打席未到達での本塁打王獲得という、2リーグ制後初めてのケースだった。打率も2割7分2厘と良化し、確実性も増している。
そして今季──。三振は相変わらず多いものの、打率は3割4分で、なんとリーグトップ。26試合を残して本塁打52と、「55号超え」を完全に射程圏内に捉える大爆発ぶりなのだ(成績はいずれも9月6日現在)。本塁打を巡る期待はいやがうえにも高まり、連日の過熱報道は周知のとおりである。先のメジャー特派員が、大化けの理由を説明する。
「メジャーの球場は広いから、きちんとスイングして飛ばさないとスタンドには入りません。やはり狭い日本の球場だから、アメリカなら外野フライだった打球がスタンドに入る。しっかりミートすれば、自分のパワーなら入るとわかってきたのです」
スポーツジャーナリストが技術的な解説で補足する。
「本人は『ヒットを狙うことで大振りしなくなったのがいい。ヒット狙いの延長が本塁打だ』と話していました。あのスイングはゴルフで言うパンチショットみたいなもの。青木功が得意なやつです。インパクトの瞬間だけ芯に強く当てる。飛距離がさほど必要のない日本の球場では、コンパクトなパンチショットで十分。巨人の阿部慎之助や、かつてのロバート・ローズなどがそうだと言えます」
◆アサヒ芸能9/10発売(9/19号)より