コロナ禍の影響で撮影中止・放映中断に追い込まれていたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」が、この8月30日に満を持して放送再開された。歴史通で大河ドラマファンを自任するタレント・松村邦洋氏と歴史家の河合敦氏に、歴代大河ドラマ全59作の魅力から、今後の大河への期待までを、存分に語ってもらおう。
河合 大河ドラマファンになるきっかけになった作品は何ですか。
松村 最初にハマッたのは、昭和54年の『草燃える』です。僕が小学校6年の頃。うちのおじいちゃんと一緒に見てる時に「どっちが悪者?」って聞いたら「いい者も悪者もない、勝ったほうがいい者なんだ。勝ったほうが負けたほうを裁くんだ」って。
河合 小学生の時に、すごい歴史観を教えられたんですね。
松村 大河ドラマの何がいいかっていうと、人の一生を1年で見られるのが魅力です。第16作の『黄金の日日』(78年)は、堺の豪商・今井宗久(丹波哲郎)の小僧をやっていた呂宋助左衛門(市川染五郎)が、しだいに老けて死ぬまでを描きますよね。そして、相手役の女優さんも老けていくのが、すごく好きなんです。栗原小巻さんなんて、あんなきれいな方が、ほんとにシワシワのおばあちゃんになっていく。
河合 私は菅原文太さん主演の『獅子の時代』でした。
松村 第18作ですから『草燃える』の翌年ですよ。
河合 大河史上、初めて明治時代が舞台。文太さんがカッコよかった。
松村 それまで『花神』(第15作、77年)を見てて、幕府を倒す大村益次郎や高杉晋作をカッコいいなと思ってたんです。それが明治維新になり、長州の会津藩の人たちに対するひどい扱いを見て、自分の地元ながら、長州はろくなもんじゃないなと、会津若松の鶴ヶ城攻防の時には泣けましたね。
河合 菅原文太さん演じる会津藩士が明治になって秩父事件や自由民権運動に関わり、ラストでは「自由自治元年」という旗を掲げて一人だけの突撃を行って戦います。加藤剛さんが演じた薩摩の郷士とともに、架空の民衆の一人が主人公で、そんな設定をした山田太一さんの脚本もすばらしかった。私の故郷の町田市は自由民権運動が盛んだったこともあり、のちに私が自由民権運動を研究するきっかけにもなりました。
松村 最終回、ラストのナレーションで、その後の足尾鉱毒事件やいろんな抵抗運動の中に、常に主人公の姿を見たという人がいるっていうところとか、大河ドラマで初めて宇崎竜童さんのロックな音楽が流れるというのもすごいなあと思いましたね。
河合 今年の『麒麟がくる』には何点くらいつけますか。
松村 点数はつけられませんが、謀反人のイメージだった明智光秀を主役に据えて、大河ドラマの改革が始まったのかなと期待しています。
河合 光秀の出生地や人物像など、わからないことが多いんですよね。
松村 優秀な人って、中途採用で、いろんな会社を渡り歩いて昇進していくように、光秀も斎藤道三から朝倉義景などいろんな「会社」を渡り歩いて、まるで令和時代の働き方の元祖のような人物だと思いますね。
河合 そうしたイメージの転換、見直しというのは長い間、教科書で足利尊氏とされてきた「騎馬武者像」が実は尊氏ではなかったということになった頃から始まっていると思います。
松村 ああ、髪を振り乱して馬に乗ってる、たけし軍団のグレート義太夫さんみたいな顔の画ですよね(笑)。
河合 歴史は研究が進むと、それまでの常識がひっくり返ることもあるので、光秀の裏切り者イメージも長谷川博己さんの爽やかさで変わるかもしれませんね。
松村 ただ、本木雅弘さんがカッコよすぎて、俯瞰で川を馬に乗って走っていくシーンなんて、まるで道三のプロモーションビデオみたいでしたね。伊藤英明さんの斎藤高政(義龍)との一騎打ちの対決なんて見ると、カッコよすぎるくらいカッコいい。道三のイメージも変えましたね。前半の『麒麟がくる』は『道三がくる』って感じですね。
河合 明智光秀が信長を殺す動機、従来諸説ありますが、今回の大河ではどの説を採用するのか、すごく気になっています。
松村 これまでのドラマでは信長に殴られたとか、パワハラという説が多いですね。
河合 いろいろな説があって、最近では、四国の長曾我部元親と信長の同盟を仲介していたのが光秀なんですが、その同盟を信長が一方的に破棄して長曾我部を攻めると言い始めたことで、光秀が板挟みになったことが原因だという説が出たりしています。
松村邦洋(まつむら・くにひろ)1967年、山口県生まれ。太田プロダクション所属。ビートたけしや掛布雅之など、従来にないものまねで一躍人気を博す。大河ドラマの役者のものまねを織り込んだ歴史知識を披露するなど、バラエティー、ドラマ、ラジオで活躍中。著書に『武将のボヤキ 松村邦洋のお笑い裏日本史』(武田ランダムハウスジャパン)など。YouTube「松村邦洋のタメにならないチャンネル」好評配信中。
河合敦(かわい・あつし)1965年、東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(日本史専攻)。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。歴史作家・歴史研究家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。主な著書:『早わかり日本史』(日本実業出版社)、『大久保利通』(小社)、『日本史は逆から学べ〈江戸・戦国編〉』(光文社知恵の森文庫)、『繰り返す日本史 二千年を貫く五つの法則』(青春新書)など。