現在、殿の中で第6次ゴルフブームが到来しています。
今回は、12年ほど前、殿の第4次ゴルフブーム真っ只中だった頃に起きた、ちょっとした事件について書かせてください。
当時、殿の車には役者志望の運転手と、その助手として軍団に入ってまだ日の浅い若手が常に同乗していたのですが、この若手、温厚で元巨人の桑田真澄に声がそっくりな、先輩であるところの役者志望の運転手をどこか軽視していました。
ソフティな性格で気のやさしい運転手はそれを特にとがめることもなく、2人の間は先輩後輩というより、ただの“歳の離れた友達”のような、たけし軍団の徒弟制度にはあるまじき関係性を形成していたのです。
そんな“友達関係な2人”は、仲良くじゃれ合うこともあれば、友達ゆえ、たわいのない小さなケンカなども繰りかえす始末で、その様子を感じ取った殿は、
「あいつら、トムとジェリーか!」
と、ツッコんだほどでした。
で、この時期、殿は仕事が終われば毎日、芝にあったどデカいゴルフ練習場に寄ると、黙々と200発ほどクラブを振るのが日課になっておりました。
付き人だったわたくしは、殿が到着する2時間前には練習場に行き、大変込み合う打席取りをするのが決まりであり、当時の流れはこんな感じでした。
夕方、運転手、そして運転助手の若手と共に、殿がドイツ産の真っ黒いセダンにて到着。
わたくしは駐車場で殿を出迎えドアを開け、「お疲れさまです」と挨拶をすると、すぐにトランクに回りゴルフバッグを取り出して、殿を追い抜く形で練習場に入ります。
「殿、今日の打席はこちらです」
といった具合に案内すると、お付きの3人で、フロントの横にある休憩場で、殿が練習を終えるのをだいたい1時間半ほど待つのです。
その日もいつものように殿を打席まで案内した後、休憩場へ向かっていると、
「われーこらっ! いいかげんにせーよ!」
といった怒号が響いてきたのです。はやる気持ちを抑えきれず、足を早め現場に到着すると、そこにはうちの若手の運転助手が、尻餅をつく形で、鼻血を吹き出し倒れ込んでいるではありませんか。
わたくしが、「大丈夫か?」と問いただすと、倒れ込んでいた若手は思いつめた表情で鼻を押さえながら立ち上がり、
「北郷さん、僕、今日で辞めます」
と告げ、そそくさと出口のほうへ消えいってしまったのです。残された運転手に事のしだいを聞くと、
「あんまり言うことを聞かないので、つい殴ってしまいました」
と興奮気味に答えたのです。
わたくし、とりあえず運転手を落ち着かせ、座らせてから、改めて理由を聞いてみると、とにかく後輩の運転助手の若手が、言われたことをまったくやらず、何度注意しても「今度やりますから」的な返事ばかりを返すため、いよいよ堪忍袋の緒が切れたというわけなのでした。