相手打者との徹底心理戦
思い出すのは、1995年に起こった阪神・淡路大震災。あの時、目の前の現実に茫然とする被災者を支えたのは、仰木監督率いるオリックスのリーグ優勝、そして翌年の日本一でした。あのオリックスの執念は、きっと神戸の復興の足がかりになったはずです。
あれから18年がたった今年、パ・リーグを制したのは楽天。東日本大震災から3シーズンで悲願のリーグ優勝を成し遂げ、震災直後でも応援の声を止めなかった東北のファンの方々に恩返しをしたのです。
振り返れば、球団創立から苦節9年。オリックスと近鉄の合併によって05年、新球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」が誕生したのも記憶に新しいところです。創立当初“弱小”と呼ばれた球団が、10年目を待たずして初のリーグ優勝を果たしたのです。
この楽天優勝の原動力になったのが、エースである田中将大です。彼は開幕から23連勝という世界記録でいまだシーズン負けなし。さらに、三重中京大からドラフト2位で入団したルーキーの則本昂大も14勝をあげる活躍を見せ、楽天の優勝に大いに貢献しました。
今シーズンの星野監督にしても、この2人で37勝もしてくれることになる展開なら、試合を計算するうえでも非常にプランを立てやすかったはず。田中にいたっては防御率1.27と、広島の前田健太の1.96を大きく離して両リーグでNO1のピッチングを見せる投手。つまり、彼が投げる日は2点以上を取れば必然的に勝てる計算が立つのです。
その影響もあって、星野監督も今年は守る野球にスイッチ。85年の阪神と同じように、守る野球から打撃のリズムへとつなげていく戦い方に専念したのです。
けれど、ここで忘れていけないのは楽天に優勝を引き寄せたのは単に星野さん一人の力では決してないということ。初代監督である田尾安志さんをはじめ、野村克也さん、マーティ・ブラウンといった歴代監督たちのチームとしての土台作りがあったからこそ、今があるのです。楽天のリーグ優勝は、その9年間の月日の集大成なのです。
中でも、名将である野村さんの功績は大きいと僕は思います。
そもそも野村さんの野球は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と言うほど計算を重点に置いたもので、その中身も机上ではパーフェクトゲームを展開できるほど緻密なものでした。
同時に野村さんは投手と捕手に、相手打者に対する心理を徹底的に教え込む監督でもあります。こういうボールにはこういう意味があるといった1球に対する打者の心境や、カウント別での攻め方、打者の配球の読み方などいわゆるID野球と呼ばれる戦い方です。阪神時代には矢野燿大、井川慶のバッテリーにこの理論を叩き込み、大黒柱として大成させました。
楽天時代もそう。野村監督は田中将大と嶋基宏の2人にこの野球理論をじっくりと叩き込み、選手として一回りも二回りも大きく育て上げました。その成果が今の楽天のチーム戦力に結び付いているのです。