新井兄弟は、ともにフォームの力も抜け、去年の6割から7割ほどのパワーでスイングできるようになっています。グリップの握りがやや緩くなって遊びが作れた分、バットコントロールが格段によくなっているのも喜ばしい点です。
このフォームの脱力は、バッティングを語るうえで非常に大切な要素の一つ。通常、力の入りすぎたスイングは体の軸がブレやすい。特に新井貴浩のような体格の大きい選手は当然、手足だって長い。体のパーツが長ければ、その分レベルに振らなければいけない部分が多くなり、少しでもフォームにゆがみが出るととたんにスイングが崩れてしまう側面があります。
しかし、スイングからよけいな力みを抜けば、それだけバットをレベルに振れるし、ボールを捉える確率も高くなる。
一方でこのフォームには心配な面もあります。それが「もの足りなさ」。本来、打者というのはフルスイングするとフライでアウトになっても心のどこかで満足してしまう生き物。ましてフルスイングをせずにアウトになった時には、全力でバットを振るよりも悔いが残る。これは打者のさがでもあります。
さらにこれまでの新井兄弟はどちらもコンスタントに打つというよりは、パワーヒッタータイプ。貴浩は昨年、阪神の4番筆頭にあげられていた打者。良太も昨年は開幕4番に座った選手でもある。それだけに2人ともボールを遠くに飛ばしたいという意識は人一倍強い。彼ら2人がよけいな力を入れないスイングに我慢できず、またもやフルスイングに戻ってしまう不安が付きまとうのです。
これを回避するには、とにかく数字です。打率に表れた事実をいかに受け止めて、2人が力を抜く必要性を感じられるか。目いっぱいのフルスイングを抑えさせるには、メンタル面で納得させるという方法に尽きるでしょう。数字とフォーム。その2つで気持ちの整理をつけることがフォーム持続の秘訣なのです。
ところで、海外の話題として前楽天の田中将大が3月1日にヤンキース対フィリーズのオープン戦に途中出場し、打者8人に2安打3奪三振、無失点とまずまずの投球を見せ、日本でも高評価を受けています。
しかし、よく考えてみてください。田中はヤンキースがおよそ160億円という大金を払って獲得した大型選手。160億円もあればいったい何人の選手を雇うことが可能か。ヤンキースはその覚悟を持って田中を獲得したわけです。1年で20億円超ということから、首脳陣もこれぐらいのピッチングはできて当たり前と考えているはず。
もちろん、よい投球ができたのは一安心ではありますが、諸手をあげて喜ぶにはまだ早すぎる。チームが望むのはこれ以上の成績。田中が求められる能力はまだまだ上にあるはずです。
年俸では及びませんが、田中同様新加入で期待が高まっているのに、不安を感じさせる選手が阪神にいます。4番候補の鳴り物入りで入団したゴメスです。今回のキャンプでは、夫人の出産で来日が遅れるなどドタバタ続き。さらに彼は下半身の張りに加え、右膝裏の痛みを訴え、実戦から離れた生活を送っています。阪神も彼を打撃の要に位置づけているだけに、やはり本人が実戦デビューできないのはつらい。いち早く調整を終えて試合に出てほしいというのが、チームとしての願いでしょう。