金沢競馬の八百長を告発するブログが波紋を呼んでいる。熱烈なファンが検証したレースの数々には明らかに“怪しいシグナル”が頻出しているのだ。
9月29日、インターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」の競馬板に「本日金沢9Rで八百長が行われます」という見出しのスレッドがレース発走直前に立てられた。「1番人気4番 5番人気2番がわざと負けます」という書き込みのとおり、1番人気の4番は11着、2番は7着に敗れた。
この程度なら、単なる予想が的中したレベルだが、スレッドを立てた人物(以下告発者)は、「金沢競馬八百長糾弾ブログ」を作成。その内容は、かなり専門的だが「馬券の売り上げ」や「馬券ごとのオッズの比較」「レースVTR」などから“不自然なレース”を追及しているのだ。
競馬ライターの後藤豊氏が語る。
「事実、八百長の疑いが濃厚だと告発者が指摘した60に及ぶレースでは、前後のレースに比べて3連単の売り上げが突出しており、メインレースを上回ることもしばしばあります。これは通常の競馬のレースではなかなか考えにくく、意図的なグループ買いがあったと考えられます。中には単勝配当が3連単配当を上回ったケースもありました」
12年11月6日の7レースは、告発者が「八百長の失敗」と掲載した不自然さがあった。人気を背負って出走した馬番8番ジェイフォース(単勝1.5倍)が、スタートから行き脚よく先頭に立った結果、第3コーナー手前で鞍上のO騎手が馬から「降りる」ように落馬。騎手は「鞍ズレが起こった」としているが、VTRを見ると、みずから落馬したように映っており、ネット上でも「Oダイブ」として血祭りに上げられているほどなのだ。
「指摘レースの展開を見ると、人気馬がわざわざ外を回ったり、外を回らす“補助馬”がいたり、出遅れたりなど、“クロ”に近いグレーですね。また、平場レースがメインレースの売り上げを上回るのもおかしな話で、O騎手の落馬も、不自然さが一目瞭然です」(前出・後藤氏)
告発者とコンタクトを取ったところ、今回の一連の“八百長疑惑”では少なくとも7人の騎手と2人の調教師が八百長に関係しているとして、こう語った。
「故意に負けさせて人気が落ちた頃に実力どおりに走らせるか、実力どおりに走らせて好成績をあげて、人気を集めてから故意の敗退をする」
こうした傾向を検証したうえで、八百長レースの特徴を「3連単の売り上げが前後に比べて突出している」「特定の騎手が乗った人気馬を除いた馬券が過剰に売れている」「関係騎手が不自然な騎乗で確実に敗退」と指摘し、警察や管轄する農林水産庁にも“告発”するなど、徹底究明を求めている。
告発者が続ける。
「ここ数年、金沢競馬は赤字続きで、毎年存廃の議論がなされていますが、今年度は黒字化が見込まれています。地方競馬の祭典JBC(中央競馬所属馬も出走する地方競馬の最高峰競走)が史上初めて金沢で開催されるため、黒字を見込んでギリギリ存続しました。それでも2014年度で確実に廃止です。連中にしてみたら、どうせ先がないなら、儲けるだけ儲けてやめてやるという魂胆でしょう。少なく見積もっても、八百長で得た利益は数千万円。金沢競馬の売り上げ減の一因に、この八百長問題も確実に含まれています」
この件について、主催の金沢競馬に確認すると、
「ご指摘の件がネット上で騒がれていることは認識しております。ご指摘のレースについても、パトロールビデオを見たうえで、裁決委員が調教師や騎手に聞き取り調査をいたしましたが、不正はなかったと裁決委員から報告を受けております。今後も公正な競馬を行うため、一所懸命対応してまいります」
八百長の有無についてはいまだ状況証拠の域を出ないが、この騒動が地元の新聞でも取り上げられるなど、告発ブログが一定の自浄作用をもたらしているのも事実だろう。
前出・後藤氏が言う。
「さすがに今後はおかしなレースもなくなるでしょう。今回の一件は、これ以上ない抑止になりました」
一個人の検証ブログが大きなうねりとなったという点でも、画期的な告発と言えるだろう。