スポーツ

楽天田中将大と嶋基宏「黄金コンビ」苦闘7年物語(2)江川が田中に教えた“手抜き投球術”

20131024h

 リードの責任は全て女房役にある──。一貫した嶋のスタンスに、田中の信頼は厚かった。優勝を決めた一戦でも、得点圏に走者を置いてからのピッチングを外角一本にしぼり、ストレートにこだわったのは、これまでに築いてきた信頼関係がなしえた配球だった。逆説的に言えば、これまでミーティングで叱責されたような“内角への投球を使うことなく三振を取れる”ことをチーム内外に証明したのだ。

 そしてウイニングボールとなった153キロのストレートは、7年前の夏の甲子園大会の決勝戦のことを思い出させたものだった。

 相手は、京都外大西高校。田中は5回途中からマウンドに上がり、優勝を決める最後の一球を151キロの速球で空振り三振に仕留めている。この時、田中は「最後はまっすぐで仕留めたかった」と、速球で決めたことについて満足そうに答えていた。その姿と優勝時の田中の姿がダブって見えたのだ。

 しかし、田中のピッチングスタイルは今季に入って明らかに変わった。担当の佐藤義則投手コーチは、「大人の投球ができるようになってきた」と評した。その大人のピッチングとは、「何が何でも三振を取りにいくというものではなく、(緩急をつけて)力の入れ具合をわきまえている」ことを意味している。

 事実、開幕からのプロ野球同一リーグ連勝記録のタイ記録に並んだ“20”を更新した日本ハム戦(9月6日)では、“あと一球コール”に押されながら、最後の打者・佐藤賢治(25)に速球を粘られると、あっさりカーブに切り換えて、空振り三振に打ち取った。

 こうした今季の田中の躍進の陰には、意識改革があったのは事実だろう。その立て役者となったのが、12年オフに対談した江川卓(元巨人)の存在だ。

 現役時代の江川も田中と同じようなタイプで、球種はそれほど多くない投手だった。そんな江川が田中に進言したのは“手抜きのススメ”だった。つまり「勝てる投手になるには、初回から最終回まで目いっぱい投げていてはもたないぞ」という投球術を授けたのである。当時、こうした江川流の投球術は“江川の手抜き”と揶揄されたが、田中に昔の自分の姿を投影して、その投球術の真髄を伝授したのかもしれない。

「初回の150キロと最終回の150キロでは、体感速度に慣れた最終回のほうが遅く見えるはず。そこを考えて投げたほうが効果的」

 と伝えたのも、江川がいかに田中を評価していたかという証しだろう。

◆スポーツライター 永谷 脩

◆10/15発売(10/24号)より

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
獲得球団現れず…田中将大「1億円の大台」に固執なら「バナナの叩き売り」状態になる
2
【カナダの湖で大騒動】熊より巨大な肉食獣「ユーコン・ビーバーイーター」は巨大なナマケモノだった
3
4種類の抗ガン剤と副作用、そしてかかった治療費は…/東大病院でガン治療を受けた猫③
4
田中将大「日本で移籍先ナシ」で急浮上した「来春メジャーキャンプ招待選手」の選択肢
5
「大連敗ストップ」太川陽介に追い風が吹く「九州でバスVS鉄道」激突の「大分と熊本の恩恵」