厳しくも愛情あふれる提言をしてきた掛布雅之氏が、ついに阪神の指導者となる。肩書は「GM付育成&打撃ディレクター」で、秋季・春季キャンプでは臨時打撃コーチも担う。若虎を育てるとともに、コーチ陣へのアドバイスも求められる役割だ。掛布氏は今の阪神の「危機感のなさ」を危惧。来季に向けての大改革論を熱く語った!
「お前の力を貸してくれないか」
10月15日、南信男阪神球団社長にそう言っていただき、阪神タイガースの臨時打撃コーチに就任することが決定しました。
南社長は阪神のCSでのふがいない戦いぶりを見てとても悔しい思いをされているようでした。僕も阪神に育ててもらった身。「お手伝いができれば」と返事をさせていただきました。ただ、引き受ける以上は片手間でやるようなつもりはないということは、南社長にもはっきりと伝えました。
僕の主な仕事は、阪神タイガースの秋季、春季臨時打撃コーチ、年間を通じ若手選手中心の育成と、コーチ陣に対するアドバイスを含めた相談役です。
いろいろなマスコミに、引退から25年がたっての古巣復帰について書かれていますが、まだまだ実感が薄いのが僕の正直な気持ち。これから阪神をどのように変えていくのか、僕に何ができるのか、時間をかけてじっくりと考えていきたいと思っています。
僕は阪神に対し、再三厳しい言葉を投げかけてきましたが、その目は臨時打撃コーチになっても変わりませんし、今後も変えるつもりはありません。そういった点も踏まえて、今回は今年の阪神の戦いを振り返りながら、弱点と改善方法を見つけていきたいと思っています。
まずは今年の総評ですが今シーズンの阪神を勝ち負けで分ければ、はっきり言って負けチーム。勝ったチームは巨人と広島の2つだけ。セ・リーグ2位通過とはいえ、チーム状況は結果とは不釣り合いのお粗末なもの。その原因の一つにあげられるのが“危機感のなさ”です。これが如実に表れたのが広島とのCSです。
ホームゲームでの格下との勝負にもかかわらず、阪神は集まったファンに対してあまりにも申し訳ない戦い方をやってしまいました。特に2戦目での桧山進次郎のホームランには、悪い意味で驚かされました。
大事な初戦を落とし、さらに第2戦、2対7とリードされた、まさにあとがない場面。そんな絶体絶命の打席で、どうしてベンチは今シーズン限りで引退する桧山を起用するのか。僕はいまだに疑問でしかたがない。もし代打を立てるのならば、せめて来シーズンにつながる選手を選ぶべきです。あの試合は、決して桧山の引退試合ではありません。負ければCS敗退という正念場なのです。
結果として桧山はホームランを打ちましたが、あのシーンで求められているのはホームランではなく得点につなげる、来季につながる選手のヒットなのです。しかもホームランのあと、野手陣はお決まりのポーズを披露しましたが、生きるか死ぬかの大一番でそんな余裕がどこにあるのか、阪神OBとしても信じられない光景でした。