10月21日、中国東北部のハルビン市では数十メートル先も見えないほどの深刻な大気汚染が発生。主な原因であるPM2.5の濃度は、1立方メートル当たり1000マイクログラムを超えて計測不能となった。これら中国発の大気汚染がこれからの季節、海を越えて日本列島を襲い、深刻な健康被害をもたらす可能性がある。
PM2.5の大陸からの飛来に関しては、今年の春頃、九州各地での濃度が環境基準を超えるなど注目されてきた。その健康被害について詳しい大分県立看護科学大学の市瀬孝道教授が言う。
「中国の工場や家庭で使われる硫黄分の多い石炭を燃やした際に発生する硫酸塩や硝酸塩がPM2.5の正体で、黄砂や花粉などに付着して日本に飛んできたものは肺の奥まで吸い込みやすく、高い濃度になれば、慢性気管支炎、ぜんそくなど呼吸器疾患の原因になります。濃度が低くても目の不快を訴えたり、花粉症やアレルギー性結膜炎を悪化させる例が各地で報告されています」
9月には中国浙江省楽清市の小学校で、児童19人が突然鼻血を出したり、頭痛や嘔吐、胸の苦しさなどの症状で病院に搬送された。原因は、学校周辺に乱立する工場から排出された基準を超える酸化クロムだとされている。
このように中国での野放図な大気汚染の深刻度が増す中、10月17日にWHO(世界保健機関)の専門組織「国際がん研究機関」が懸念すべき指摘をしている。PM2.5などによる大気汚染は「発がん性を有する」として、そのリスクを、ヒ素、アスベスト、プルトニウムと同等の最高レベルに分類したのだ。まさに「殺人」レベルの大気汚染なのだ。
そして晩秋から冬へと向かい、日本にとっては最悪の気象条件となる。気象庁天気相談所が言う。
「11月になると、北海道に向いていた偏西風が本州中央や九州地方に向きが変わり、上空に舞い上がった汚染物質も大陸から飛来するおそれがあります」
つまり、ヒ素、アスベスト、プルトニウム級のがんリスクのある“殺人有毒物質”が、九州地方を直撃して降り注ぐことになる。
「アメリカではたとえ30マイクログラムであっても、常時さらされていると、肺がんを発症するという報告があります」(前出・市瀬教授)
呼吸器系ばかりでなく、心筋梗塞など心臓発作の原因となる、と欧州心臓病学会も指摘しているほどなのだ。
また北京大学が中国の4大都市(北京、上海、広州、西安)で行った調査では、昨年にPM2.5が原因と考えられる死者数が8572人いたとされる。
さらに、米マサチューセッツ工科大学の研究によると、中国北部の石炭燃焼による大気汚染で、5億人の平均寿命が5年短くなった可能性さえあるという。
にしても迷惑な隣人のトバッチリを食ってはたまらない。老人や幼児のいる家庭では心配が募るが、気象協会が公開している「PM2.5分布予測」などを参照して屋内避難やマスクなど有効な対策を取りたい。