黄砂とともに飛来したPM2.5。熊本県での注意喚起に続き、3月8日には関東地方に襲いかかった。その毒性と防御法とは。
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黄砂の季節に脳梗塞の患者数が急増することが明らかになったのは、11年7月31日に行われた日本脳卒中学会でのことだった。ある医療関係者が語る。
「九州大学の北園孝成教授が、黄砂の季節にアテローム血栓性と呼ばれる脳梗塞の救急患者が増えるデータを発表しました。手足の麻痺や言語障害の症状が出やすい危険なタイプの脳梗塞のリスクが1.5倍になるというのです」
中国から飛来した黄砂に付着した有害物質が原因と見られていたが、そこにきて中国内で発生している大量の微小粒子状物質「PM2.5」が加わったことで、そのリスクはさらに上昇するという。脳梗塞に至るメカニズムを解説するのは、新ゆり内科・高橋央院長だ。
「粒子の直径が5ミクロンを下回ると、肺の奥のほうまで入っていくことが可能です。ガス交換をするために血液が大量に来ているところで、そこから体内に吸収されると推測されます。白血球の一部には貪食細胞と呼ばれる細胞があり、異物を食べます。PM2.5を食べると、心臓や脳の血管の内壁に入って抜け出せなくなる。コレステロールでも起こることなのですが、中に入った貪食細胞が膨らんで血管を詰まらせてしまうのです」
冠動脈が詰まれば心筋梗塞、脳血管が詰まれば脳梗塞を起こすリスクが格段に高まる。厚生労働省の「年地域保健医療基礎統計」(09年)によれば、08年の関東・九州地方の脳梗塞患者数は約32万人にも上るのだ。黄砂自身の毒性に加えて、PM2.5が大量に飛来すれば、関東・九州を中心にどれほどの健康被害に及ぶのか想像もつかない。
「ディーゼルを原因とするPM2.5は環境ホルモン物質です。影響は血管ばかりではありません。動物実験では精子が減少したことが報告されています。一部の研究者は、黄砂が微生物を運ぶことも指摘しており、生物兵器レベルの『細菌の箱舟』と呼んでいます」(前出・医療関係者)
環境省が定めたPM2.5に関する暫定指針は、大気中の濃度が1日平均で70マイクログラム/立方メートルだ。現在では多くの自治体で監視態勢が強化されており、これを超えると注意喚起が行われる。日本エアロゾル学会会長で、東京農工大学大学院の畠山史郎教授が、防御法を語る。
「警告が出た時は、なるべく外出しないようにすることです。どうしても、という時はマスクを使用しましょう。本当に抑えようと思ったらN95という微粒子用のマスクがいいです。一般のマスクは顔との隙間から入ってしまいますが、密着率が高いものであれば、効果はあります」
現在、汚染の爆心地・中国では日本製の空気清浄機が飛ぶように売れている。
「日本製の空気清浄機はそれなりの効力を持っていると考えます。換気などで部屋を開けると物質が入ってしまい、きれいになるまで時間がかかりますが、部屋を密閉して使えばかなりの除去が期待できますね」(畠山教授)
落ち着いた対応で、黄砂の季節を乗り切れば心配はないという。