フジテレビの長寿番組だった「夜のヒットスタジオ」(68~90年)は、斬新なカメラワークに定評があった。さらに、騒動の多さもまた、たびたび俎上に載せられてしまう。
「バンザ~イ!」
初代司会者だった前田武彦(享年82)は、鶴岡雅義と東京ロマンチカが歌い終えたとたん、謎のバンザイを。実は直前の選挙で共産党の議員を応援しており、当選したことへ前田なりのメッセージだった。
ところがフジはこの行動を重く見て、同番組の司会を降板させ、さらに前田がテレビから長らく干される流れに発展した。
さて、番組最大の事件といえば、忌野清志郎(享年58)率いる「ザ・タイマーズ」が巻き起こした「FM東京罵倒演奏」だ。番組から派生した「ヒットスタジオR&N」で、89年10月13日に計画は実行される。
清志郎はリハーサルでは普通に歌っていたが、本番では「偽善者」の歌詞を全く別なものに差し替える。
「♪FM東京、腐ったラジオ~。FM東京、オ○ンコ野郎~。FM東京、政治家の手先」
いくつかの曲を同局で放送禁止にされたことへの怒りの報復だが、代償は大きかった。タイマーズがフジに3年間の出入り禁止になっただけでなく、同じレーベルの松任谷由実のアルバムさえも、FM東京は一切オンエアしないという強行策を取る。
司会の古舘伊知郎は「リハーサルと違うんだもんなあ」と、あきれ顔で言った。長らく封印されてきた場面だが、09年の清志郎追悼特番では、該当箇所にピー音をかぶせた上で解禁させている。
同番組は前出の前田武彦のように個性的な司会陣がいたが、猛毒と呼べたのが番組終了間際に就任した女優・加賀まりこ(77)だ。
「歌手の人に媚びない司会をやります」
初登場時に宣言しただけあって、歌唱前のトークで、今なら即炎上するワードのオンパレード。
人気絶頂だった「プリンセスプリンセス」の奥居香(54)には、まさかの一言。
「あんたはブタね。生理中じゃないの?」
地上波のゴールデンタイムなのに、である。奥居は演奏後に楽屋に籠城して号泣し、同番組への以降の出演を拒否した。徳永英明(60)にも、同じように風貌批判。
「ジョーズみたいな歯ね。ブサイク」
アイドルグループ「CoCo」が「はんぶん不思議」を歌うとなると、
「このお嬢ちゃんたちは挨拶しないのよ。あんたたちのほうがよっぽど“不思議”よ」
極め付きはデビュー間もない酒井法子(50)に対してだった。まだ十代半ばなのにこう言い放ったのだ。
「キャバクラに行ったら一番になれるわね」
司会を組んだ古舘は、ゲストにも加賀にも気を遣うという状態がしばらく続いたそうである。
意外な場面は、久保田利伸(58)と五木ひろし(73)のバトルである。五木は同番組最多222回の出演を誇るベテランだが、87年に久保田がマンスリーゲストだった際、異変は起こった。
久保田がのちにトーク番組で、バトルを明かしている。
「ガンガン蹴ってくる人がいて『お前、俺より目立つな』ってことだったんでしょうね」
実は五木にも言い分があった。同番組はオープニングに歌をつなぐ「紹介メドレー」があるが、その際に久保田がガムを噛んでいた。自身を育ててくれた番組に対して、あまりにも礼儀がなってないと感じた五木の「愛のキック」だったようである。