デビューから26年、天才ジョッキー武豊が、11月17日に行われた「マイルCS」でGI通算100勝という金字塔を打ち立てた。今後、誰にも破られないであろうJRA68勝、海外7勝、地方25勝という不滅の記録の中から、競馬記者&ファン1000人がベストレースを選出した。
武豊(44)に100個目となるGIの勲章をプレゼントしたのは、空飛ぶ天馬・ディープインパクト産駒のトーセンラーだった。今年の天皇賞・春で2着するなど、デビュー戦以来、中・長距離路線を歩んできた馬が初挑戦のマイル戦、それもGIの大舞台で初の栄冠を手にしたのだ。
武豊番・片山良三氏が話す。
「天皇賞・春の3200メートルから距離が半分になるマイルCSへ参戦することを藤原調教師から聞いた武豊は、最初は驚きを隠せなかった。ただ、あらためて考えてみると1800メートルのきさらぎ賞で強い勝ち方をしているし、『実はマイルは合っているかも』と思い、昨年の覇者サダムパテックではなく、トーセンラーを選んだんです」
こうして、みごとに優勝を飾り、サダムパテックは7着に敗退したことからも武豊の相馬眼は、さすがのひと言。レース後、集まった報道陣に「直線(の走りがディープに)似てなかった? それを出したかった」と、武豊はニヤリと笑みを見せたそうだ。
そんな数々の“ユタカ・マジック”で、常にファンをアッと言わせてきたわけだが、競馬ファン1000人が選んだ「ベストレース」トップ10は別表のとおり。
中でも7位にランクしたスペシャルウィークのダービーが「自分の中では1位」と言うのは、日刊スポーツの鈴木良一記者だ。
「デビュー前の追い切りにまたがり『ダービーを勝てる馬』と予言したという話は、競馬サークル内の伝説の一つです。1冠目の皐月賞は大外18番からの発走で、単勝1.8倍の断然人気も3着に敗退。レース後、仮柵を外したばかりで内側が完全有利の芝状態に対して『内外で公平な競馬をしたかった』と、珍しく不平を漏らしたのを覚えています。ユタカさん自身も相当に悔しかったのでしょうね。ダービー前には『巻き返したいという気持ちは強い』と公言することで、みずからにプレッシャーをかけるようにしていたのが印象的でした」
結果、デビュー前に予言したとおり、2着ボールドエンペラーに5馬身差をつけて圧勝。ダービー未勝利が競馬界の7不思議とまで言われた武豊が、10回目の挑戦でダービージョッキーの称号を手に入れた瞬間だった。
そもそもデビュー翌年、史上最年少でGIを制した菊花賞でも、出走権19位の次点馬スーパークリークにこだわり、「この馬と出走ができないのなら諦めます」と、他の騎乗依頼を断っていたという。
しかし、若くして天才と呼ばれた理由は、こうした相馬眼だけではない。卓越した騎乗センスでもユタカ・マジックを披露し、ファンばかりか競馬サークルをうならせてきた。
前出・片山氏は、89年の桜花賞をベスト3の一つにあげる。
「当時の阪神のマイルは外枠が絶対的な不利。戦績で圧倒的な上位を誇ったシャダイカグラだが、まさかの18番枠を引いたことで陣営の笑顔も消えていた。武豊の出した答えは、出負けして(今でも絶対に故意とは言わないが)内に潜り込む作戦。前半でムダな脚を使わせず、最後の最後にホクトビーナスを頭差かわした。あとで考えても、これしか勝ちはなかったと思える大ファインプレーです」
◆アサヒ芸能11/26発売(12/5号)より