武豊といえば、オグリキャップとディープインパクトとのコンビで2度の競馬ブームを演出。特にオグリは、アンケートでも1位と2位に輝き、有馬記念の復活ラストランで涙したファンも多いのではないか。
ただ、衝撃度ならディープが3冠に輝いた翌年の天皇賞・春だろう。スポーツ報知の牧野博光記者が回顧する。
「3コーナー手前の残り5ハロン付近からロングスパートして4コーナーで早くも先頭。直線でも最速の上がり脚で、レコードタイムの優勝でした。残り5ハロンが全て11秒台というラップに、M・デムーロやC・ルメールといった海外の名手たちは『見たことがない!』と驚くほどでした」
2着のリンカーンに騎乗していた横山典が「リンカーンは生まれた時代が悪かった」と吐露していることからも、衝撃度がうかがい知れるというものだ。
完璧な騎乗ぶりならアドマイヤベガの99年ダービーも忘れられないレース。
「デビューから寄り添って、このレースに向けてさまざまなハードルをクリアして臨んでいるだけに、卓抜した中身の濃さがある。特にこのレース、2着ナリタトップロードの渡辺、3着テイエムオペラオーの和田がパーフェクトな騎乗をしているのに、度胸を決めて最後方からの追い込みに賭けた武豊の戦略に沈められてしまったというレース。すごみを感じた一番です」(片山氏)
圧巻のレースぶりも思い出に残るが、ゴール前の叩き合いも武豊ファンを魅了してきた。競馬パーソナリティの鈴木淑子氏のベストレースは、アンケートで8位にランクしたエアグルーヴの天皇賞・秋だ。
「17年ぶりに牝馬を天皇賞に導いたレースが1位です。もちろん、オークスも母娘制覇を達成した思い出深いレースですが、天皇賞はさらに劇的。本当に勝つ場面が見られるなんて夢のようでした。それも連覇を狙うバブルガムフェローとの一騎打ちになって、差し返そうとする牡馬をさらに外からねじ伏せる牝馬らしからぬシーンを見せてもらって感動しました」
壮絶にして渾身の追い込みとなれば、6位にランクした08年天皇賞・秋も記憶に残る戦いと言えるだろう。安藤勝騎乗のダイワスカーレットと武豊騎乗のウオッカの一騎打ち。その差はわずか2センチで、写真判定に15分近くもかかった。
「検量室であんなに興奮しているユタカさんを見たのは初めてでした。『同着でもいいと思った』『今日のレースは忘れない』と話す声が震えているようでしたからね」(前出・牧野記者)