44年前に日本が設定したADIZについて、潮氏はこう解説する。
「GHQ占領時、アメリカ軍が日本の防空を担っており、日本のADIZを設定しました。その後、航空自衛隊ができ、要撃機がそろい、実力がついたところで、空自が防空任務を引き継ぎ、ADIZもそのまま譲り受けたのです。微修正はありますが、基本的にそのラインは変わっていません」
中国の人民解放軍は、陸軍を中心として組織され、海軍・空軍力はしばらくなかった。ところが、近年、海軍・空軍の戦力が飛躍的に伸び、今回の一方的なADIZの設定となったのだ。こうした歴史的経緯を考えれば、中国の理屈がいかに失笑モノかは理解できる。では、設定後、中国は何をするのか──前出・潮氏が予想する。
「世界中から叩かれた中国は、民間航空機に対してのスクランブル発進を極力、抑制するでしょう。設定から3日後に米軍のB-52が飛んでも何もしなかったことから、強大な米軍相手に軽々しいふるまいはしないことも明らかです。考えられるのは、日本の自衛隊機に対してのスクランブル発進でしょう」
一方的に設定したADIZに入った自衛隊機に、中国人民解放軍空軍機はどんな行動に出るのか。軍事ジャーナリストの惠谷治氏が解説する。
「一般的に領空侵犯機に対しては、翼を振るなどの警告を行い、領空外に出るように誘導しますが、従わなければ警告射撃を行い、強制着陸させることもあります。その際、機体が異常接近して、接触事故が起こることもあります。最終的には危害射撃で撃墜させます」
今年1月、尖閣海域で中国海軍が海上自衛隊の艦艇と飛行機にレーダーロックオンを行ったことは記憶に新しい。今回のことを引き金に、尖閣上空で中国側が自衛隊機に対してロックオンを行う危険性はかなり高いのだ。前出・潮氏が語る。
「尖閣の時、日本政府は船に対するロックオンをすぐ断定しましたが、航空機については可能性を指摘しただけでした。つまり、航空機にはロックオンをパイロットに伝える警告装置は付いていますが、それを記録する装置は装備されていないようなのです」
証拠がなければ言ったもの勝ちとばかりに、被害者を装った中国が一方的に宣戦布告をしてくるのは十分考えられることである。
前出・惠谷氏が日中の戦力を分析する。
「装備・練度から緒戦は自衛隊が圧勝するでしょう。そこで政治決着に持ち込めればいいのですが、中国が引かないことも考えられます。日本は資源・物資を海上輸送に頼っています。中国が次々と来る民間のタンカーを攻撃目標にすれば、日本にとっては最悪の事態になります」
尖閣を含む中国のADIZは主に九州・沖縄の部隊によって防衛される。航空機の戦闘においてはレーダーの存在が優劣を決めるのだが、九州には5つ、沖縄には4つの固定レーダーがある。有事の際に中国が九州・沖縄を狙うのは自明の理で、これらの地域が緊張の激震に見舞われることは間違いない。