拳銃といえば、警察官と裏社会の人間が扱うものというのが世間の認識。それが今、根底から覆ろうとしている。ある「設備」さえ準備すれば素人が自宅で簡単に製作でき、実際に銃撃も可能なのだから。
「3Dプリンター」なるものが今、静かに普及しつつある。読んで字のごとく、平面ではなく立体的な造形物をコピー、製作できるプリンターのことで、十数万円程度から誰でも購入することができるのだ。産業ジャーナリストが説明する。
「設計図のデータさえあれば、車からフィギュアやネジまで、たいていのものは作れます。溶解させた樹脂をプリンターヘッドで押し出しながら少しずつ積み上げて立体物を構成する方式や、細かい粒子にした樹脂をインクジェットで噴射して固めながら立体化していく方式などがあります」
今、論議を呼んでいるのは、3Dプリンターで拳銃を作ることができるという事実だ。銃社会のアメリカでは実際に製作した個人、企業があり、ネット上には完成品を試射する映像も流れている。産業ジャーナリストが続ける。
「その設計図がファイル共有ソフトを介してネット上に流れ、誰でもダウンロードできるようになっている。これまでのダウンロード数は100万前後にも上っています」
この3Dプリンター銃の能力を、銃器ジャーナリスト・結城五郎氏が解説する。
「銃はあっても、実弾はどうするのか。アメリカではそれぞれの口径に合った、実弾を作る機械が売られています。口径が30以下と小さく、火薬量が少なければ、硬い樹脂なら2発は撃てるでしょう。3発目となると、暴発の危険性が伴うと思いますが、基本的に硬質樹脂製なら殺傷力は本物に近いものがある」
ただし、「プロ」はこのような銃の使用はためらうという。関東のさる広域組織関係者によれば、
「運が悪ければ自分の手が吹っ飛びかねない、暴発の可能性があるものを使うわけがない。改造拳銃やフィリピン製のコピー商品を撃ったことがあるが、正直言って怖かったな。それと同じだよ。必ず殺せるという確実性も、本物に比べるとそりゃ落ちるだろうし」
たとえ樹脂製でも、日本では発砲可能な拳銃を勝手に製造、所持することは犯罪である。プロは3Dプリンター銃を敬遠するというが、素人には手が届きやすいということになる。前出・結城氏は、恐るべき事態を指摘する。
「素人の銃マニア、銃愛好家向けのヤミ流出というのはあるでしょう。マニアは実際に持てば使いたくなる。で、山奥でひそかに試射するんです。すると銃マニアが犯罪マニアへと変貌していく。俺ならこうして撃って完全犯罪に仕立てる、などと妄想を抱くこともあるでしょう」
実際に実行に移すヤカラが増えれば「素人ヒットマン」の激増につながるという戦慄の事態を招くのだ。結城氏はさらに警告する。
「スパイ映画では、硬質樹脂の銃を飛行機に持ち込むテロリストがいましたが、それが現実のものとなりうるのです。金属探知機にも引っ掛かりませんし、分解もできる。実弾は金属なので、ステッキの中などに詰めて持ち込みます。もしこの3Dプリンター銃が普及、ヤミ流出によって実用化されれば、銃愛好家だけでなく、テロリストの武器にもなりうる。あるいは、素人の復讐劇や強盗にも使えるわけです。非常に危険な社会が訪れることになりかねない‥‥」
凶弾が一般人にも容易に向けられる時代が、すぐそこまで来ているのだ。