日本でハードコア映画が話題になったのは、70年から80年代までの一時期だ。艶系ビデオが隆盛となるまでの「時代の仇花」は、どんな運命をたどったのか─。
愛欲シーンに詳しい映画ライターの松井修氏は、和製ハードコアの嚆矢となった「愛のコリーダ」(76年、東宝東和)について、今も変わらぬ厳しい現実を語る。
「昨年も4K修復版が劇場公開されましたが、かといって日本ではノーカットがまかり通るはずがない。結局、画質は上がっても肝心な場面はほとんど修正されています」
大島渚監督は、日仏合作映画として禁断のテーマに取り組む。昭和初期に世を騒然とさせた「阿部定事件」を題材に、“男のイチモツ”を切られるという被害にあう吉蔵を藤竜也が、定を松田瑛子(享年58)が演じた。松井氏が続ける。
「一度、ノーカットの状態のものを見たことがあります」と話す松井氏によれば、そこには下腹部も結合シーンも「すべて映っています」というが、「ある意味、驚きは吉蔵が定の“あそこ”にゆで卵を挿入するシーン。取り出すと卵が愛液でぬめっていたのが確認できました」とも振り返る。
ノーカット版では、藤竜也のイチモツが「意外に標準サイズだった」ことも松井氏は確認した。
映画はおとがめなしだったが、映画の宣伝写真などを使った同名の書籍が法律に違反するとして、大島監督と出版社の社長が起訴されている。
大島監督は続く「愛の亡霊」(78年、東宝東和)でも、日仏合作のハードコアに挑んだ。主演は前作と同じく藤竜也だが、ヒロインに吉行和子が抜擢されたのは想定外。数々のドラマ・映画に出演する人気女優がまさか、40歳を超えての初脱ぎだけでなく、ガチンコ情交を演じたのだから。松井氏によれば、既婚者の女が若い男との情欲に走り、最後は夫を2人で殺害するという物語だのだが、「野外だろうと家の中だろうと、ひたすらヤリまくっている映画ですが、さらに藤が吉行の“あそこ”を“剃毛”するシーンまでありました。おそらく、日本の映画で初めて披露されたと思います」(松井氏)
実は吉行の家系は、NHK連続テレビ小説の題材になったほど有名人ぞろい。一族の猛反対はあったが、吉行は役を演じ切り、今なお実力派女優として活動している。
さて、大島監督に負けてなるかと奮起したのが武智鉄二監督だ。愛染恭子が主演に抜擢された「白日夢」をリメイクし、続いて「華魁」(83年、富士映画)を公開する。
最初にヒロインに選ばれたのは、4代目クラリオンガールで、刑事ドラマなどにも出ていた堀川まゆみだった。ところが、堀川は「ホンバンの意味を知らなかった」と号泣して降板。
結局、無名だった親王塚貴子に交代した。
「交代は話題作りという感がなくもなかった。本当に堀川まゆみが、いったんは役を引き受けたのかという疑問は残ります。ただ、性表現そのものは、武智監督のほうが大島渚より長けている印象はありました。映画そのものは、特にどうということもありませんが」(松井氏)
この作品を最後に和製ハードコアは幕を下ろし、性メディアの主流は、艶系ビデオに移っていく。