テリー 藤さんのデビューのきっかけは、大学時代に日活にスカウトされたことなんですね。
藤 そうです、日劇(日本劇場)‥‥今の有楽町マリオンの前で、ですね。今思えば、信じられない話ですよね。たぶんそのスカウトマン、老眼で目が悪かったんでしょう(笑)。
テリー いやいや、こんなに男前なんですから、信じられますよ。歩いてたら、声をかけられたんですか?
藤 そうです。その人に「100万、200万なんて、金の単位じゃなくなりますよ」って言われたのがカーンと来ちゃいまして(笑)。「そんな世界があるなら見てみたい」と、つい思っちゃったんですね。あとあと考えてみればフカシもいいところですけどね、そんな言葉(笑)。
テリー 現実はもっと厳しかった、と。
藤 こっちは石原(裕次郎)さんみたいなスターと一緒に片足をどこかに引っ掛けて、タバコを吹かしながら格好いいセリフを言えるもんだと思っていましたからね。でも、実際に行ってみたら大部屋で、毎日通行人の役ばっかりですから。「話が違うじゃないか」と思って。
テリー 気分としては「早く100万くれよ」と。
藤 そうですよ。だけど、やってるうちにだんだんと「ヤバイとこに来ちゃったなあ」と、深刻になってきたわけ。
テリー 最初は夢心地だったけど、ブレイクのきっかけがつかめなくて焦りが出てきたんですね。
藤 ええ、もう大学も辞めちゃってますし、「これは何とかしなくちゃ」と。そこから、どうすれば自分は俳優として、役をもらえるのかなんてことを真面目に考えだしたわけです。
テリー 例えば宍戸錠さんは、昔からずっと映画を観てきて、どういう俳優のポジションが空いているかを考えたうえで、整形手術で頬にシリコンを入れたわけじゃないですか。そういうのと比べると、最初の志から全然、違ったというわけですね。
藤 だから、僕なんかゲスなんですよ。「とりあえず、石原さんのマネをしてりゃいいんだ」って思ってましたから。でも、あるきっかけがあって、そのモヤモヤを吹っ切ることができたんですけど。
テリー それはどういったものですか?
藤 渡(哲也)さんが主演した「野獣を消せ」っていう映画に出た時です。僕はものすごい狂犬みたいな若者の役だったんですけど、それでちょっと演技のやり方の目鼻がついたというか、そういう感覚がありましたね。
テリー 確かに、狂犬的な役ができる役者さんって、それまであまり日活にいなかったですもんね。それこそ渡さんとか、高橋英樹さんには、そういう無軌道なアウトローの方向性は無理じゃないですか。
藤 僕もそうだと思いましたね。それなりに考えて取り組んで、その作品で“野獣”になれたと思います。
テリー 僕は「こういうタイプの役者さんが日活から出てきたんだ」という感じで、藤さんの存在を実に新鮮に感じていましたよ。
藤 あ、当時ご覧になっていただけたんですか?
テリー もちろんですよ、僕はあの頃の日活、大好きでしたから。