テリー 今度「バカのすすめ」という本を出されますよね。やっぱりバカになるって大事ですか。
木久扇 そうですね、これはまた骨折の話とつながるんですけど。骨を折ったのがバカな話で、新聞のチラシに2リットルのペットボトルのお茶が1本100円って出てたんですよ。それで、自分でスーパーに行って2本買ってきたんですよ。
テリー もう金あるんだから、いいじゃないですか。
木久扇 いや、「得した」という気持ちがゾクゾクするんです(笑)。それでね、週刊誌なんかも買って、重いですから、それをビニール袋2つに分けて、持って帰ってきたんです。で、ドアを開ける時に、袋を右手から左手に持ち替えたら、スーッと吸い込まれる感じで、ドンッて倒れちゃったんですよ。それで結局、骨折だっていうんで、救急車で大学病院に運ばれたんです。
テリー たった200円なのにね。
木久扇 そしたら病室代が、4人部屋は8000円なんですけど、他の人がいると嫌だから個室を取ってもらったら1日2万7000円だって言うんですよ。で、「3カ月入院してください」って。で、僕はパッと計算して、なんだかんだで、「あぁ、300万円かかっちゃう」と。それで慌てて骨と相談して、1カ月で退院したんです。
テリー いやいや、ゆっくりしてくださいよ。
木久扇 でも、病院ってワゴン車みたいなので看護師さんが薬を運んで来ますでしょ。で、間違えちゃいけないから、毎日「おはようございます」「お名前をおっしゃってください」「生年月日は?」って、そのたびに本名と生年月日を言うわけです。で、気付いたのは「あ、これは普通のおじいさんにされちゃう」と。
テリー ん?
木久扇 芸人でいる時には本名で呼ばれることってないんですね。それが毎日本名と生年月日を言ってたら、普通の人になっちゃうんです。だから、「これは早く退院しなくちゃ」って思ったんですよ。
テリー あぁ、それはよくわかります。だから、当たり前ですけど、師匠は全然バカじゃないんですよね。
木久扇 いや、バカなんですよ。私、もともとは高校の食品科を卒業して、森永乳業に入ったんですね。ところが牛乳缶を持ったり、農場から送られてくる原乳を測ったりしているうちに「こんなことしてる場合じゃないだろう」と。年が23歳でしたかね。やっぱり、せっかく生まれてきたんだから自分の得意なことをやらなくちゃいけないと思って。
テリー それはそうですね。
木久扇 で、出版社に友達がいて、長谷川町子先生の4コマ漫画1枚が5万円って聞いたんですよ。私の月給は5500円でしたから「じゃあ、男の長谷川町子になってやろう」っていうんで、清水崑さんって、かっぱの先生(編注:「かっぱ天国」などの漫画で有名)のところへ入門したんですけど、その辺が自分でもバカだなぁと。
テリー なんでですか。
木久扇 だって、その会社にいれば生活は保障されるし、いろんな施設もあって、箱根に行ったり、療養所もあるし、ボーナスも年に4回出るんですよ。それを切って、売れるかわからない漫画家になろうって、他人から見たらバカですよ。
テリー そう見る人もいるでしょうね。
木久扇 それで今度は、清水先生に「落語家になったほうがいい」って勧められるまま落語家になるんですから。そういうバカさ加減で世渡りをしてきて。だから、「これを本にしたらおもしろいんじゃないか」と思ったんですね。