お猪口で茶を楽しむ、なんだか飲茶体験をしているような肝炎の猛者はγ-GTPが高記録保持者でも、筆者のように2500まではないようで、「実はもう死んでたりして…」なんて冗談を当然のことのように浴びせてくるわけです。
同室のいつもの紳士は「気にしちゃだめだよ」となだめてくれます。なんとありがたい。それからは、病院食を食すたびに血糖値が上昇。美人女医は「こりゃ、膵性糖尿病の兆しだね」といきなりの糖尿病告知。
とにかく筆者は血糖値を下げるために、白米食やパン食、じゃがいも、サツマイモを拒絶して、階下の売店で購入したサラダチキンと千切りキャベツ、冷奴でやり過ごすわけですよ。これがつらいんだけれど、自分でインシュリンを打ちたくはないので、体調管理に努めます。しかし、無情にも血糖値はビットコイン高騰のごとく上がり続ける。血糖値抑制薬を飲んでもムダ。結局は、血糖値280の大台へ…。指に針を刺して血糖値チェックしたと思った瞬間、看護師さんはナースステーションへ戻っていきます。あ、何か不具合があったのかな…そう思っていると戻ってきたその手にはインシュリン注射が…。
心の準備もできていないのに、インシュリン初体験です。体の中に針が入ってくる感覚に打ち震えながら、インシュリンチェリーボーイは見事に筆おろしではなく「血糖値おろし」と相成りました。こりゃマズいぞ…、これじゃ正真正銘の糖尿病じゃないか…。不自由な生活をしなくちゃいけないのか?
頭にはアンドレ・ザ・ジャイアントのように大きな「絶望」の2文字が重くのしかかりました。レフリーストップがあるのかどうか。それからというもの、薬の調整+インシュリン注射が日課になりました。不自由な生活の中でも、なんとかお世話になっている社長さんや社会学の先生などにレクチャーを受け、体質改善を行うようになったわけですよ。
日々、柿の葉茶やゴボウ茶を飲み、濃い目の緑茶でポリフェノールを多く摂ります。先生処方の薬とその他の努力の結果、血糖値は一定以上上がらなくなりました。毎日、太ったおばさんがのしかかってくるような気分のインシュリン生活は、注射5日目にして別離しました。ありがとう先生、ありがとう関係者各位!
それからは、狭い病室の中、ネットで膵臓の改善が見られたと伝えていたヒンズースクワットと腹筋、背筋、腕立て伏せで筋力をつけ、糖尿病への完全勝利。γの値も2500⇒480まで降下。酒を断って2週間、原稿執筆を行いながらの地獄のような日々を過ごしましたね。病院食も全てをちゃんと平らげ、肉体改造の毎日。退院が2日後に迫った頃、いろいろと悪気もなく冗談を飛ばしていた肝炎のオヤジが「本日をもって退院いたします!」と大声で叫びました。早く出ていけ、このお猪口オヤジ!
退院当日、多くの看護師さんが「丸野さん、よかったですね。頑張りましたね」という労いの言葉をかけてくれました。本当にお世話になりました。
(完)
丸野裕行(まるの・ひろゆき):ライター、脚本家、特殊犯罪アナリスト。1976年、京都市生まれ。フリーライターを生業としながら、求人広告制作会社のコピーライター、各企業の宣伝広告などを担当。ポータルサイト・ガジェット通信では連載を持ち、独自の視点の記事を執筆するほか、原作者として遠藤憲一主演の映画「木屋町DARUMA」を製作。文化人タレントとしてテレビなどにもたびたび出演している。