事件

紳助親分の「使用者責任」(6) 宮崎学が喝破する「紳助・吉本・警察」

 紳助不在の芸能界は何事もなく、以前と変わらぬ状態を保っている。あの引退劇はいったい何だったのか。原因ともなった紳助の背後にいたヤクザの存在とは? ヤクザ社会に精通する作家・宮崎学氏が「紳助問題」を喝破する!

 引退から2カ月もたつのに、紳助については依然として「逮捕の噂」など、さまざまな憶測や怪情報が飛び交っていますね。 それだけ人気のあるタレントだったということです。メディアが紳助に注目するのは、「もっと凄い事件があるのでは?」と考えているからでしょうが、推測だけでは個人の人格否定になってしまいます。
 私としては、今日の紳助のスキャンダルそのものにまったく興味がないので、いわゆる「紳助問題」にも興味はありません。
 しかしながら、背景にあるさまざまな問題は看過できません。
 具体的な違法行為がないのに、ヤクザと食事をしたとかメールのやり取りをしただけで、なぜ引退しなくてはならないのでしょうか。
 この引退劇で損をした人と得をした人について考えれば、問題の一端が見えてくると思います。
 まず、損をしたのは明らかに紳助とその家族だけですね。これに対して、得をした側は警察、弁護士などの学識経験者、テレビ局と広告代理店、そして紳助の所属する芸能プロダクションなどが考えられます。
 この件では、暴排条例の存在をほとんど費用をかけずに国民に〝宣伝〟できました。紳助の引退がなければ、これほど周知徹底が図られることはなかったでしょう。
 そもそも全都道府県でほぼ同じ条例が制定されるのも異常なことなのですが、条例の内容が自治体ではなく警察の公式サイトで紹介されていることを見ても警察主導であるのは明らかです。警察はプロパガンダの成功により、存在感を強められたと言えます。今後は芸能プロダクション他、多くの企業が警察の天下り枠を増やすことが十分予想できますね。
 また、芸能プロダクションはこぞって社内の「コンプライアンス(法令遵守)推進委員会」の増員を発表しましたが、メンバーとなる弁護士や有識者も利益を得ます。
 そして、芸能プロダクションとテレビ局は紳助が出演していた収録済み番組の処理などで一時的には損失が出たかもしれませんが、最終的には得をします。高額のギャラで知られる紳助をリストラできたからです。
「ヤクザとつきあうな」と言うことで、得をする人がいるのもおかしな話ですが、そもそも国家権力が私人間の交友に介入するのがおかしいのです。誰とつきあおうと自由ですし、憲法では結社の自由が保障されていますから、ヤクザは憲法上存在が認められているのです。
 ただし、「かつては世間もおおらかで、芸能人もおおっぴらにヤクザとつきあえた」かのように語るのも、的外れですね。例えば、美空ひばりは三代目山口組との関係を問題視され、長年トリを務めていた年末のNHKの紅白歌合戦の出場を辞退せざるをえませんでした。
 つまりヤクザに対して緩やかな時代などなかったのですが、一方では庶民の憧れであったこともまた事実です。「仁義なき戦い」をはじめ、ヤクザ映画や漫画には名作が多いですよね。
 しかし、ヤクザを扱った映画の制作も、〝社会の空気〟によって自粛ムードになっていきます。このことが原因で日本の映画産業は急速に衰退していったと私は見ています。
 でも、紳助には何年かしたら復活してほしい。というか、必ず復活すると確信しています。そのリベンジストーリーには協力してあげたいですね。関西には横山ノックや西川きよしなど芸人が政治家になる文化もあるんだけど、紳助は政治よりお笑いがいいと思います。

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