いよいよ5打席目。最終対決では、再び怪物・佐々木の本領が発揮された。160キロを超えるストレートとキレッキレのフォークを半々に投げ分けワンツーと追い込む。4球目は外角低めの際どいストレートだが、判定はボール。
これには球場のファンからブーイングが出るが、佐々木本人はどこ吹く風。何事もなかったようにポーカーフェイスである。思えば、ボールの判定を巡って球審に詰め寄られるという稀有な経験をした佐々木だが、学習能力の高さも見せ、ここは冷静に振る舞うのだった。
平行カウントからはフォークを投じ、大谷を内野ゴロに仕留める。
「大谷が見事なバットコントロールでうまく球を捉えていい当たりでしたが、打球が野手の正面をついてしまいましたね」(松永氏)
大久保氏は、5番勝負でも見せた佐々木の投手としての能力をこう評する。
「ピッチャーには“見せ球”“カウント球”“勝負球”とある。勝負球がいくつあるかで打者は対策を立てるが、佐々木は全部の球が勝負球。そのために対応が難しいんです」
内藤氏は、高く足を上げて下半身の力を上半身に大きく伝えて投げ込む佐々木のピッチングフォームを改めてベタ褒めする。
「佐々木は190センチと、あれだけ大きな体で足を思いっきり上げているのに、横のブレが少ない。そのためにコントールがいいんです。(制球に悩む同じく長身の阪神・)藤浪は佐々木のもとに通って(ブレないコツを)教えてもらうといい。佐々木朗希は、今後も完全試合を何度もやってのけるでしょうね」
夢の対決は5打数2安打で終わった。大谷がホームランこそ放ったものの、やや佐々木が優勢に進めていたようだ。とはいえ、2人の対決は回を重ねるごとに変化、グレードアップしていくと、松永氏は語る。
「ピッチャーには三振を取りたいという願望がある。例えば最初の対戦でストレート勝負を挑み、三振を取れなかった場合、次は必ず配球を変えてくる。またバッターは、理論より経験が大切です。対戦が増えていく中で、体に相手投手のデータが蓄積されていきます。私自身も(経験によって)速球と鋭いフォークが武器だった伊良部秀輝投手を打ってきた。経験は何よりも勝る。大谷もそういうタイプでしょう」
内藤氏も同意見だ。
「試合を重ねていくと、大谷の対応力が発揮されて、ドデカい一発が期待できる。何よりも2人はお互いに対戦を楽しむと思います」
ややせっかちだが、同じ舞台・メジャーでの対戦が今から待ち遠しい。意外にも佐々木本人の口からは、積極的にメジャー志望に関して発せられたことはないが、本人の意向とは裏腹に周囲は黙っていない。海を渡るのが必然となってくるのだ。
「今はまだ年間通して中6日ローテで回れていないですし、球数制限にも過敏です。それがクリアされて投手として完成されれば、ダルビッシュの日本球界最後のほうのようになってくるはず。他球団はエース級をぶつけず、捨て試合にしてしまう。故障さえしなければ、いずれ佐々木にも起こりうる状況で、日本球界で投げ続ける意義がなくなります。メジャー挑戦にあたっては契約金、年俸が著しく抑えられる“25歳ルール”の壁もありますが、それを待つと現在27歳の大谷は30歳を超えてくる。日米野球、あるいは来年開催のWBCで、ともに代表に選出されて練習での対戦というケースも考えられますが、お互いが全盛期の時に本気の勝負を見たいですね」(スポーツ紙デスク)
夢対決に向け、今後も「イワテノタカラ」いや「セカイノタカラ」である両雄から目が離せない。