5月25日、東京都は「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」を公表した。
10年ぶりに見直された今回の新被害想定が対象としているのは、M(マグニチュード)7クラスの「首都直下地震(都心南部直下地震、多摩東部直下地震など5地震)」とM8~9クラスの「海溝型地震(南海トラフ巨大地震と大正関東地震の2地震)」で、都の防災会議は、このうち被害が最も大きいとされる都心南部直下地震(M7.3)が冬の夕方(風速8メートル)に発生した場合の死者数を6148人と想定。前回想定に比べて死者数が3493人減少したとして、過去10年間にわたる減災対策の成果を自画自賛している。
ところが長年、都の防災対策に携わってきた元幹部は「まさにツッコミどころ満載のお手盛り想定。対象とされた7地震における実際の死者数は、いずれも『ケタ違い』の数に上るはずだ」と切り捨てた上で、次のように指摘するのだ。
「防災会議は住宅や特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化が進んだこと、木造住宅密集地域の減少と不燃整備地域の拡大が進んだことをもって『揺れや火災による死者は減る』と想定しています。しかし、都内には耐震基準を満たしていないビルが無数に存在しており、その全体像や危険性についてはほとんど把握されていません。また、防災会議が『倒れない』と想定している超高層・高層ビルやタワーマンション、免震ビルについても近年、『地震によって倒壊または全壊するリスク』が専門家の間で指摘され始めています。同様に今回の新被害想定では、鉄道橋や道路橋の崩落などによる人的被害も考慮外とされているほか、電車の横転などによる人的被害については、言及すらされていないのです」
ならば実際に起こりうる、掛け値なしの被害とはどのようなものなのか。
次回以降は、鳴り物入りで公表された新被害想定の大ウソを具体的に暴きつつ、戦慄の被害実態を十数回にわたりレポートしていきたい。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」、(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。