裁判と岡本氏の告白によって明らかになった「名義偽装」。競馬サークル関係者は声を潜めてこう話すのだ。
「20年以上前はヤクザが一般人の名義を借りたり、調教師が裏で馬主になったとの噂も耳にしました。暴対法の施行以降、JRAの審査は厳正になりましたが、調べようがない部分もある。書類上、不備がなければ、排除する理由がないのです。しかも今は馬主のなり手がいない時代。JRAは年々減少する馬券の売上高を気にして、反社会組織には厳しい反面、一口馬主などに間口を広げて人気と収入の回復に必死です」
さらにこの関係者は、名義偽装の具体例をあげた。
「91年の天皇賞馬プレクラスニーです。表向きの名義人はいましたが、事実上のオーナーが広域組織の親分であることは、競馬サークルで知らない者はいなかった。管理調教師も、バックルにその組織のマークが入ったベルトを堂々としていましたからね。その親分は週末は競馬場に来て、記者席に座っていました」
みずから「ニセ馬主を紹介した経験がある」と明かす厩舎関係者は、今年3月23日、中山競馬場での条件戦に勝った馬について、こんなことを言うのだ。
「共有馬での名義人隠しはよく見られます。この勝ち馬も共有馬で、代表者として登録されている人物の持ち分はわずか1割。もう一人の持ち分が9割ですが、経営する建設会社の業績が悪化して銀行から金を借りたことがあるんです」
JRAの個人馬主登録要件には所得や資産の最低額が定められており、それ相応の収入を持った人物しか馬主を継続できない。借金の事実が明るみに出ることは、マイナス材料となりかねないのだ。厩舎関係者が続ける。
「つまり税務上、その馬主が表に出るとまずいケースがあるわけです。だから名義変更、あるいは裏へと回る。が、会社の業績がまずいといっても、そういう人はえてして個人資産はあるので、預託料などは十分に払える。ただ、このケースは1割といっても、実際には1円も出資していない。完全な名義貸しです」
つい最近も、有名演歌歌手の夫の馬主登録申請でひと悶着あったという。
「提出された書類に不備はない。ところが警察関係者を通じて調査すると、実際の馬主、それも反社会的な人物が他にいるのではないか、との疑惑が浮上しました。内部でも登録申請から排除したいとの声が上がりましたが、決定的な証拠を示せるわけでもない。泣く泣く申請を受理しました」(JRA関係者)
内情を白日の下にさらした岡本氏の告白は、競馬界を取り巻く環境を一新させる契機となるか──。