「3月初め、横山典弘(49)のエージェントが登録から外れていることに気がつきました。その後、蛯名正義(48)のエージェントも同じように‥‥。何があったのかと思えば、制度廃止に向けての動きがあることがわかりました」
競馬ライターがこう話すように、今、ある「改革」が競馬界を激震させている。騎手や調教師の間で論議を呼び、「審議ランプ」が点灯中の問題とは──。
競馬解説者が言う。
「きっかけは、競馬ファンからJRAへかかってきた苦情の電話だったようです。例えば、ある騎手を担当するエージェント=トラックマンが紙面で、その騎手が騎乗する馬に重い印を打って、凡走することがある。それが馬券操作ではないのか、というようなものらしい。あるいはその逆で、担当騎手の馬がすごく気配がいいのに印を打たず、エージェントが自分で馬券を買って儲けることができるんじゃないか、とか。そこでJRAは、現在のエージェント制度(騎乗依頼仲介者制度)を廃止し、来年1月から新たに『騎手代理人制度』なるものを運用すべく、動きだしたのです」
騎手本人に代わって馬主や調教師と接触し、騎乗馬の交渉、確保を行うのがエージェントで、1人のエージェントが担当できる騎手は最大で、3人+減量騎手1人。各専門紙のトラックマン、元トラックマンがそのほとんどを担っているのが現状だ。
JRAが提唱する新制度は、「疑念払拭」のため、そうした予想行為ができる人物を排し、同時に、1人の代理人が担当できる騎手は1人だけ、というもの。
「馬券予想に関与する人がエージェントをするのはダメだというのは、心情的にはわかります。しかし、さすがに競馬の素人にやってもらうわけにもいかない。例えば、牧場のスタッフや装蹄師などになるんですかねぇ‥‥」(前出・競馬解説者)
今年に入り、JRAは騎手会、調教師会と意見交換会を開き、エージェントに対しても、説明会が行われた。先の横山と蛯名は「そういうことなら、エージェントに頼むのをやめる」と、新制度運用開始を待たず、自分で騎乗馬探しをすることにしたという。
こうした「改革」の提唱に、騎手会や調教師会は困惑の色を隠せない。トラックマンが言う。
「特に関西騎手会は猛反発しています。所属騎手に匿名でアンケート調査を行った結果、圧倒的に反対の声が多かった。福永祐一(40)などは『報道関係の人(トラックマン)にやってもらわないと、自分は成り立たない。独立では無理』と訴えている」
福永の言う「独立」とは、新制度ではトラックマンに頼むことができないため、新聞社などに所属しない「フリー」の立場の人物を採用することを指している。つまり、その騎手専属として働く代理人だ。福永が訴える問題点はまず、ここにある。前出・競馬解説者が渋い表情で言う。
「エージェントの取り分はだいたい、騎手が手にする賞金の5%が相場とされています。もし1年に4000万円ほど稼ぐ騎手なら、取り分は200万円。それでは暮らしていけません。現在のエージェント=トラックマンはアルバイトとしてやっていますから、問題ないわけですが。例えば、担当騎手が落馬事故で大ケガし、半年休むことになったら、その間の生活保障はどうするのか、という問題もあるでしょう」