2000年2月23日。私はデヴィ夫人の著書「デヴィのちょっと一言よろしいかしら」(冬青社)発売記念サイン会を取材するため、都内の書店を訪れていた。
当時、デヴィ夫人は、その歯に衣着せぬコメントが大ウケ。芸能界のご意見番として、ワイドショーにたびたび登場する有名人だった。
そんなこともあって、この著書でも小柳ルミ子をはじめ、羽賀研二、梅宮アンナ、桜庭あつ子、マリアン、鈴木その子などをやり玉にあげ、ズバッと斬る物言いが話題になったものだ。
ところが発売前の2月18日、「新刊発売」の話題を取り上げたテレビ朝日の「スーパーモーニング」で、コメンテーターとして出演する音楽プロデューサーの酒井政利氏が、痛烈なパンチを繰り出した。
「今、世の中でパラサイト現象ってあるじゃないですか。何かに依存する、寄生する。デヴィさんも芸能界にパラサイトしていると思う。サッチーから叶姉妹まで、話題にありついているという感じがしてならない。ご意見番風に面白がられていることと、言ってよいこととは別なのに、その辺がわかっていないんじゃないでしょうか。デヴィさん、いったい何を極められた人なのか、逆に聞きたいですよ。ここまで言えるというのは…」
この発言に対し、夫人は怒り心頭。サイン会そっちのけで「即席反論会見」の場と化し、
「紳士ぶって大嫌い。彼こそが芸能界に寄生しているパラサイトです。テレビで謝罪しなければ、告訴します!」
そうまくしたてて酒井氏に怒りをぶつけ、一刀両断に斬りつけたのである。
酒井氏は山口百恵や郷ひろみといったスターを育てた、業界では知らない者のいない敏腕プロデューサー。一方のデヴィ夫人は、訪日中だったインドネシアのスカルノ大統領に見初められ、第3夫人の座に就いたことはよく知られる話。
92年にはニューヨークでのパーティー中、女性にシャンパンをぶつけ、怪我をさせて禁固刑を受けた。ワイドショーのご意見番になってからは、神田川俊郎やマリアンとバトルを繰り広げるなど、それこそ芸能マスコミには常に話題を提供してくれる人物だった。
この騒動について、夫人と親しく、先の番組で酒井氏と同席していた芸能レポーターの梨元勝氏にコメントを求めると、苦笑いしながらひと言。
「昔から彼女は人には厳しいけど、自分のことは言われたくないタイプだからね(笑)。裸の王様にならなければいいんだけどなぁ」
だが、梨元氏の心配など、どこ吹く風。現在も毒を吐きつつ、我が道を突き進む夫人のしたたかさには驚かされるばかりだ。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。