大地震の惨禍は、運よく生き残った人々にも容赦なく襲いかかる。まず問題となるのが物資の不足、中でも「食料」と「水」の枯渇だ。
都市防災の専門家も、次のように警鐘を鳴らしている。
「都区部に最大の被害をもたらすとされている都心南部直下地震の場合、震度6強以上の揺れに襲われたエリアは、地震発生直後から『陸の孤島』と化します。特定緊急輸送道路から細街路に至るまでのありとあらゆる道路が、建物の倒壊や火災などによってマヒ状態に陥ってしまうからです。エリア内に緊急用の飲食物資が備蓄されていたとしても、すぐに底をつきますから、早晩、人々はその日を生き延びるための水を手に入れることすら難しくなる。ヘリなどによる食料や水の供給が行われたとしても、焼け石に水でしょう」
ところが都の防災会議は、断水も含めた「飲食物資の早期枯渇」に強い警告を発しておきながら、地震発生の1カ月以後に起こり得るシナリオとして「略奪や窃盗など治安の悪化を招く可能性」を指摘しているのだ。都市防災の専門家がアキレ返る。
「まさにノーテンキとしか言いようのない、超ピンボケ想定です。そもそも、人間が飲まず食わずの状態で生きられるのは、およそ3日間(約72時間)とされている。新被害想定には『発災直後からスーパーやコンビニで飲食料などが売り切れになる』などと書かれていますが、地震で崩れかけたスーパーやコンビニでの略奪や窃盗なども含め、命の危機に直面した人々は、生き延びるためにあらゆる手段を講じて、食料と水を手に入れようとするでしょう。そして争奪戦に敗れた人々が、次々と行き倒れていくのです」
まさに「去るも地獄、残るも地獄」の叫喚地獄。その具体的な様相への想像力を決定的に欠いているがゆえに、新被害想定は専門家から役立たずと揶揄されるのだ。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。