S動物病院でジュテの病状を聞いた2021年の9月16日から、3日間はあまり記憶がない。自分でもわからないほど、動転していたのだと思う。
16日深夜、妻のゆっちゃんが一人で寝ていた部屋から、くぐもるような声が聞こえてきた。翌朝は目を腫らして起きてきた。ジュテが助からないかもしれない、別れが迫っていると思ったらもう涙が止まらなくなったという。
闘病中、ジュテが食べたものをメモするようにしていたが、その2、3日はなぜか簡単な記録しか残っていない。ただ、以前と比べて食べる量がかなり減っていることに改めて気がついたようで、こんな内容だ。
「何も食べてくれない。シャケが好きなので『クリスピー』のサーモン入りのカリカリを買ってきて、砕いて食べさせたりしてみたが、少しだけ。サーモン入りチュール、マグロとサーモンの缶詰、どれも食べない」
焼いたシャケはかろうじて食べたものの、大好きなカツオの刺身を焼いてあげても、食べなかった。
夜、ジュテは僕が寝ていたベッドに、貝殻のように丸まって寝ていた。仕方なく仕事部屋のソファーで休み、目が覚めるとジュテの様子を見に行ってみるのだが、時折、目を覚ましていて、ジッとこちらを見ている。
何か食べたいのだろうかと思い、抱きかかえて台所に連れ出した。前日に買ってきていたカツオの刺身を冷凍したものを焼いて食べさせたら、最初は全くその気がなさそうだったが、おもむろに食べ始めた。もっとも、ガツガツとかぶりつく弟猫のガトーと違って、舌で食べ物を押し出すようにするので、口に入っていかない。食べているようで、ほとんど食器のカツオは減らないのだ。それでもかなり時間をかけて、3分の2くらいは食べただろうか。
そのうち、リビングの窓際でまったりしていたガトーがやってきた。マグロの缶詰をあげると、すぐに完食してしまう。カツオ好きないちばん下の弟、クールボーイも匂いに気が付いて、2階から降りてきていた。が、警戒心が強く、人に触らせない猫なので、ジュテの回りをウロウロしたり逃げ回ったりしている。ガトーはどこか察しているようなところがあるが、まだ2歳のクールは何もわかっていないようだ。
9月19日の夕方、スーパーでシャケを買ってきた。塩分があるシャケは猫の場合、腎臓に悪いから食べさせてはいけないというが、ジュテは塩分がなく脂っぽいシャケは食べたがらない。甘塩のシャケならOKだ。
「少しでも食べた方がいいから、甘塩ならいいよね。好きなものを食べさせてあげようよ」
と、ゆっちゃん。
40日以上に及ぶ闘病は、ジュテに毎日、何を食べさせるかを悩み続ける日々でもあった。猫にしては贅沢な食生活だが、元々選り好みするタイプで、普段から手がかかる猫だった。
(峯田淳/コラムニスト)