「恋人? ええ、いますよ」
91年3月8日。東京・赤坂プリンスホテルで行われた、日本テレビの木曜ゴールデンドラマ「朝日の当たる家」の制作発表に出席した名取裕子は、左手薬指にはめている金色の指輪について報道陣から聞かれ、嬉しそうにはにかんだ。
松坂慶子や黒木瞳など、30代の有名女優が相次いで結婚する中、「次に結婚する大物女優は彼女では…」と当時、芸能マスコミに最もマークされていたのが、名取だった。
名取は89年、松任谷由実の夫で音楽プロデューサー・松任谷正隆氏との不貞が伝えられ、私も当時、渋谷区内にあった名取のマンション前を何日も張り込んだ記憶がある。
だが2人の姿をキャッチすることはできず、一部週刊誌が「私、松任谷さんと結婚したい!ユーミンから彼を奪ってみせるから!」と宣言した、という記事をブチ上げた際も、半信半疑だった。
とはいえ、報道があれば、とりあえず本人に「直当たり」して話を聞くのが芸能記者の仕事だ。帰宅時、自宅前で名取に話を聞こうとするものの、「事務所を通して下さい~」で終わり。
そこで、世田谷区内にある松任谷氏の自宅を訪ねた。するとちょうど、ユーミンが仕事に出かけるところ。名刺を出して来意を告げると、彼女はサングラス越しに「なんとも思っていません。ちゃんちゃらオカピーですね」と苦笑いしながらひと言。
そこで、コトの顛末をまとめ記事にまとめると、「ちゃんちゃらオカピーですね」というフレーズが他のメディアやワイドショーでも取り上げられ、独り歩きすることになる。
おかげでしばらくの間、私は「おっ、ちゃんちゃらオカピーだ」と先輩記者やカメラマンにからかわれたものである。
さて、名取の記者会見に話を戻すと、このドラマは新築マンション当選の誤報がきっかけで一家が崩壊の危機を迎える、というストーリー。名取が演じるのは、夫と幸せな結婚生活を続ける中、ふとしたはずみで浮気に夢中になっていく人妻役だ。
「私はまだ独り者なので、夫を支える主婦という設定には実感がなくて…」
と話す彼女だったが、「恋人」については、
「尊敬する監督には、私の恋人しか知らない顔まで撮られてしまいました」
と意味深発言も。ただ、結婚に関しては「う~ん、まだないですね」。
それにしても、映画「吉原炎上」「序の舞」では、大胆なベッドシーンを披露。その後は「2時間ドラマの女王」として君臨する名取の「結婚しない」理由とは…。
気になるところである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。