90年代、世間に大きな衝撃を与えたのが、多くの有名女優たちによる一糸まとわぬ写真集だった。
樋口可南子を筆頭に、小柳ルミ子、大竹しのぶ、島田陽子、石田えりらの大物女優などが大ブームを巻き起こしたものだ。
そんななか、1993年10月、「妖艶写真集の決定版」と銘打った写真集「INFINITO」(竹書房)で42歳とは思えないほどの美しい体を惜しげもなく披露したのが、辺見マリだった。
10月20日、都内で出版記者会見を開いた彼女は、こう語った。
「デビュー当時のセクシー歌手というイメージのままだけで、ただ脱ぐというのは嫌だったんです。女性独特の嫉妬や色香、美しさを物語的に展開できれば…。そういう意味では、この写真集は私の人生そのものなんです」
撮影のために16キロものダイエットを敢行。11日間をかけスペインを回り撮影された写真集は「放浪」「幻想」「追憶」など6章立てで、中には体にヘビを巻きつける、という大胆なカットも含まれていた。
「ヘビは苦手なので初めは気持ち悪くて…。でも、撮影に入ったら、そんなことも忘れました」
ところが、である。なんと、この写真集は「拝み屋」からの洗脳により出版されたもので、しかも、そのギャラも含め、13年間にわたり計5億円以上を、この「拝み屋」グループにだまし取られていた、と2003年4月の自叙伝「もうひとつの経験」(青春出版社)で告白したのである。
辺見が西郷輝彦と離婚したのは、81年。精神的、金銭的に追い詰められていた彼女に近づいてきたのが、「拝み屋」のリーダー格の女性Aだった。「拝み屋」とは祈祷や霊視、降霊などにより、悩みを解決し報酬を得る輩で、辺見は彼らから「悪い金を持っていてはいけない。使わなくてはいけない」と言われるがままに金をつぎ込んでいたという。
結果、91年には借金が膨れ上がり、自宅を売却。つまり、写真集の出版は、その損失補填だったのだ。
しかし、しょせんは焼け石に水。しかも、ギャラまで「拝み屋」に奪われて…。
辺見は後にテレビ番組「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日系)に出演した際に、この洗脳騒動について語っているが、あの写真集のウリであるヘビも「神のお告げ」として巻き付けたというから、洗脳詐欺の恐ろしさをあらたて感じるばかりだ。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。