「キングヘイローの呪い」が解けないままキャリアを重ねていった福永は、それでも常にリーディング上位を確保。昨年は131勝で全国リーディングのトップに輝いた。しかし、人気、メディア露出、知名度、発言、存在感、話題性、実力評価‥‥そのどれを取っても武には遠く及ばず。「武豊になれなかった男」に甘んじてきたのである。競馬解説者が言う。
「武と福永の一番の違いはセンスだと思いますよ。レースを見ながら『そこで外に持ち出せ』という時に動かなかったり、『斜め前にいる馬がだんだん下がってくるぞ』という場面で、なぜかその位置にいたりする。ちょっとしたポジション取りのミスで順位を落としてしまいます。武の場合は『そこにいちゃまずいんじゃないの』というのはほとんどないですもん。結局、『福永すげぇ!』というレースがないんですよ」
スポーツライターの相沢光一氏もこう評するのだ。
「横山典のような思い切った騎乗はしません。腕で勝ったというレースはほとんどないと思います。一方で、誰をもそこそこ納得させられる騎乗をする。スタートのセンスはいいから、例えば追い込み馬を中段につければ、最善を尽くしているように見えますよね。『あの位置から末脚を爆発させたらすごいことになる』と思わせるでしょう。でも、そうはならない。いい位置につけ、とりあえずミスしていないと思わせる乗り方だというだけで、勝負師的なものが欠けているわけです。強引な乗り方をしない、つまり馬を壊さない。これは馬主にとっては一つのメリットですが、だから素人ウケはするけど、玄人ウケはしないんです」
腕ではなく、単純に馬が好調だから勝った──。必然的に、岩田康誠、戸崎圭太、川田将雅といった、時には力ずく、腕っぷしで馬を持っていく剛腕タイプの騎手には追い負けし、ここ一番の一発勝負には弱いと言われるゆえんである。
12年、福永は立て続けに大失態を演出し、評価を下げた。まず、1番人気ワールドエースで臨んだ5月27日の日本ダービーである。トラックマンが解説する。
「ペース自体は速くなかったのですが、結局、ワールドエースより前にいた3頭で3着までを占められ、ワールドエースは外を回し、足を余して負けました。そこで内を突くとか3、4コーナーで上がっていくとか、勝負がかったことができないままでしたね」
他の馬に比べて勝てるチャンスが多かった素質馬で凡走、支持したファンをも落胆させたのだ。