「オヤジは、自分は何を言われてもええけど、家族のことを言われたら怒りはる人でした。こっちが『謝れ』言うてから謝りに来るくらいなら、謝ってもらわんでもエエ」
96年1月25日、故・横山やすし(享年51)の初七日法要の後、報道陣の囲み取材に答えた長男・木村一八は、ダウンタウンの松本人志に対し、こう言って怒りをあらわにした。
コトの発端は、松本のレギュラー番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」(フジテレビ系)で前年9月から始まった「やすしくん」というコーナー。黒ブチめがねに短めのオールバックで「ワシは日本一の芸人や!怒るでぇ~、しかし!」と、誰が見ても生前の横山とわかるキャラクターでギャグを連発。しかも、晩年は吉本興業を解雇され、生活の貧困が伝えられていた横山を模して「ガス、止められとるがな、しかし。ガス屋もええ根性しとるの」「水道、止められとるがな。近畿の水がめ琵琶湖も、いい根性しとる!」とパロディーにしたことで、木村をはじめ横山の遺族、関係者を激怒させる結果になったのである。
会見には未亡人となった妻の啓子さんも同席。
「(松本には)自分の実力でお仕事をしてくれはったら…。他人の家庭のネタでお仕事するんじゃなくてね。娘の光も中学ですしね。イジメのネタにでもなったら、どうしますか。私らはみじめです」
そう言って、唇を噛み締めた。
一説によれば、松本はダウンタウンの前身で「ライト兄弟」と名乗っていた頃、横山が司会する「ザ・テレビ演芸」に出場。その際、横山から「お前ら、ナメとんのか。そんなもん、漫才やない。チンピラの立ち話や!」とコキ下ろされ、その遺恨で…という噂も飛び交った。吉本興業は「その件についてコメントするつもりはありません」と回答するのみ。松本自身もコメントを出すことはなく、「やすしくん」は、横山が死去して以降、打ち切られた。
ところがこの騒動はその後、ワイドショーなどで評論家やコメンテーターを巻き込む「場外乱闘」へと発展する。「もう『起き上がれない』とみて、笑いものにするのは卑劣」「芸人である以上、ネタにされるのは宿命だが、家族を茶化すのはルール違反」「いや、芸人は真似されてナンボだから、怒るのは野暮。笑い飛ばすべき」等々、意見は割れたものだが、評論家の小沢遼子氏に話を聞くと、
「そんなもの、当事者同士でやりあえばいい話で、第三者がいいと悪いとか、あれこれ言う話じゃないんじゃないの」。
ともあれ、芸能マスコミを騒がせた、この年しょっぱなの大きな話題だった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。