ウクライナ軍による東部や南部での反転攻勢を受けて、予備役の部分的動員を表明したロシアのプーチン大統領。ロシア各地では招集に向けた動きが伝えられているが、そんな中、ドネツク州とルハンシク州、ザポリージャ州、さらにヘルソン州などの支配地域で、ロシアへの編入の是非を問う「住民投票」が9月23日から始まっている。全国紙国際部記者によれば、
「住民投票は27日までで、早ければ30日にもロシアへの編入手続きが行われる見通しだと、タス通信が報じています。ただ、プーチン政権は14年3月にも、軍事制圧したウクライナ南部クリミア半島で、強制的ともいえる住民投票を実施。結果、違法な編入を強行した過去があり、この時には投票結果を捏造した可能性が高いと、さんざん西側から批判を受けましたからね。今回も編入ありきでしょうから、作為が加えられている可能性は否定できません」
事実、ロシア兵がアパートを戸別訪問し、銃を突きつけながら投票用紙に記入させている──。ウクライナのウクラインスカヤ・プラウダ紙は、南部ザポロジエ州エネルゴダルのオルロフ市長が通信アプリ「テレグラム」へ投稿したものとして、そんな実態を報じた。同時に「エネルゴダル市はこのゲストを拒否する。市民は外出せず、ドアの鍵を閉めている」との市長のコメントを掲載した。
さらに、東部ドネツク州マリウポリのアンドリュシチェンコ市長顧問も、独立系メディアの取材に対し、「ロシア側が市内の企業を訪れ、従業員に『投票するか、職と給料を失うか、どちらかを選べ』と脅迫している」と答えている。
プーチン大統領はなぜ、そこまでして支配地域のロシア編入手続きを急ぐのか。前出の国際部記者は「核兵器使用への大義」として、こう続ける。
「ロシアのペスコフ報道官は、結果が出れば併合に向けた手続きが直ちに行われるとして、併合した地域への攻撃はロシアへの攻撃とみなすと、ウクライナ側を牽制した。メドベージェフ前大統領も22日、ウクライナ東部ドンバス地方などが住民投票を経てロシアに編入される、と明言。その上で『編入された領土を防衛するため、戦略核を含む、あらゆる兵器が使用されうる』と通信アプリで警告している。支配地域がロシア領となれば、核兵器を使えることになる、というのが彼らの言い分です。編入手続きが終われば、プーチンが考える『核使用の大義名分』は、一応整うということになるわけです」
ただ、ウクライナ側や西側諸国は、編入に向けた動きを強く非難。G7首脳も声明を発表し、「ニセの住民投票。われわれはロシアへの併合の一歩とみられる住民投票を認めることはないし、仮に併合と称することが起きたとしても、決して認めない」としている。前出の国際部記者は、
「9月24日にはニューヨークの国連本部でも、ロシアのラブロフ外相が『疑いなく国家の完全な保護下に置かれる』と発言しました。西側はじめ、国際社会がこれを認めない一方、彼らなりの大義名分が整ってしまうことで、核兵器使用が信憑性を帯びてきたことも事実。つまり、より解決の糸口を見つけづらくなったということです」
狂気の殺戮王は、本当に核のボタンを押すのか──。
(灯倫太郎)