そもそも、正恩氏から女帝に課せられた真の重要ミッションは“外貨獲得”だ。すなわち、一連のロシア支援の動きはビジネスにすぎないのである。
「かつてソ連時代に、ルーブル借款の返済免除や無償の石油提供など多大な支援を受けてきたにもかかわらず、北朝鮮はロシアを1つの取引先としか見ていない。例えば、152ミリの砲弾1発の相場は3万~5万円程度。それに伴う火薬や信管を合わせると2倍の金額になると言われる。これがミサイル弾になると桁が1桁2桁変わってくる。数百万発単位の取り引きなら、一度に億単位のカネが北朝鮮に流れることになる」(軍事アナリスト)
もちろん、間もなく寿命を迎える軍用器具や運搬手段も商品ラインナップの1つだ。
「ロシア軍は半年間で700万発の砲弾を消費したといいますが、そろそろ砲身もしくはプラットフォームにもガタが来るでしょう。『2S19ムスタ─S』という自走榴弾砲や『BM─21』という自走多連装ロケット砲をロシア軍が買い増す可能性が十分に考えられます」(軍事アナリスト)
北の貢献はモノに限らない。西側諸国が「警戒アラート」を鳴らす、お得意のサイバー攻撃である。
「北朝鮮は外貨獲得の手段としてサイバー攻撃の技術を磨いてきました。国連の報告によれば、20年~21年半ばにかけて、北米、欧州、アジアを拠点にする仮想通貨交換業者から計約58億円以上の仮想通貨を盗んでいる。この技術は軍事転用可能です。相手国のサーバーに侵入してインフラや医療にかかわるPCを破壊してしまいます。ウクライナもロシア軍のサイバー攻撃は警戒していますが、北朝鮮からとなれば話は別でしょう」(山田氏)
では、北朝鮮の兵器を集結させたとして、ロシア軍の戦況は好転するのか。二見氏がシミュレーションする。
「ロシア軍は戦車と砲兵部隊が充実しているため、部隊同士の火力と機動力のぶつかり合いで持ち味を発揮します。それだけに麦畑や沼地が泥濘して戦車の機動力が生かせない今秋のうちに、30万人の増兵と弾薬を十分に確保して部隊を再編制するでしょう。冬季になると路面が凍結するため、戦車や装甲車は、平地を自由に機動することが可能になる。圧倒的な火力を発揮して東部地域において有利に戦うように企図するでしょう。今後も引き続きロシア軍の動きを注視する必要があります」
北朝鮮の砲弾を買い込んで冬を乗り越えても、プーチン大統領を踏み台にした与正氏が高笑いをするだけかもしれない。