2002年日韓ワールドカップでは、日本代表キャプテンを務め、“フラットスリー”の中軸として出場を果たした森岡隆三氏(47)。今回、自らの経験を元に、サムライブルーが勝つための戦略や戦術について語ってもらった。
決勝トーナメントで勝ち上がらないとなかなか対戦できないドイツ、スペインといった強豪国を相手にどう戦えばいいか。基本的な戦略については、これまで日本代表が積み上げてきたものをしっかり出すだけでいいと思います。
昨年の東京五輪での日本代表は、「できるだけ前線からボールを奪いにいく」という戦略を立てていました。ただ、準決勝で対戦したスペインのようにボールキープに長けているチームが相手だと、簡単には前でボールを奪えない。それならばDFがしっかりブロックを作って、いい守備からいい攻撃に結びつけていく。そして一度ボールを持ったら簡単に放棄せず大事につないでいく。そういうサッカーができていました。
さらに、今年9月に行われたアメリカとの強化試合では、相手が単純な長いパスすら簡単に蹴れないほど、前線からプレッシャーをかけていました。
つまり、自分たちになかなかボールを持たせてくれないスペインのようなチーム、逆に自分たちのボール保持率が高くなるアメリカのようなチームのどちらが相手でも基本的に日本のやるべきことは変わらない。
前の選手がプレスをかけられるならかけ、それができないなら後ろの選手がかける。違いは、どの位置の選手がボールを奪うかだけなのです。これが「日本がこれまで積み上げてきたこと」であり、強豪国相手でも変える必要はありません。
ただし戦術面では複数のアイデアを準備して状況によって使い分けていくことも大事です。例えばリードしている試合での残り時間の使い方やシステムの変更などがそれに当たります。
細かいところでは、スローインの工夫です。相手ゴール近くのスローインは、工夫によってコーナーキックにつなげやすい。
また、最初のコーナーキックでショートコーナーなどのデザインプレーを見せておくと、相手に「日本はいやらしいことをやってくる」と思わせることができる。
さらに、仮に失点した場合はキックオフを大事にする。失点したチームはどうしても動揺するので、漠然としたキックオフをしがちです。そこを相手に引っ掛けられて早々に追加点を奪われるというケースが少なくない。俊足が武器の前田大然がいる時などは、相手陣奥に大きく蹴り込んで前田を走らせ、ゴールを奪えずともコーナーキックにつなげるといったプレーも面白いと思います。
森保監督なら、こういった戦術プランをいくつも準備しているはず。何を見せてくれるか楽しみです。
もう一つ、大会期間中におけるチームの雰囲気作りも重要です。私が参加した2002年大会では、中山雅史さん、秋田豊さん、森島寛晃さんといったベテラン選手たちが頼りになりました。秋田さんは出場機会がなかったし、他の2人もプレー時間は僅かでした。それでも期間中の練習は一切手を抜かず、水運びや用具運びまでもやってくれていた。
私自身はグループリーグの初戦でケガをしてしまい、主将という立場でありながら以後の試合には出られませんでした。ケガの直後はふさぎ込んでしまい、それは周囲にも伝わっていたと思います。でも、3人の方々の姿を見て、変な空気を出してしまっている自分を反省することができました。
この大会を含め日本がベスト16まで進出した3大会では、ベテランや控え選手たちによるこのような貢献が必ずありました。今回のメンバーには、そのことを体験し理解している長友佑都(36)、吉田麻也(34)、川島永嗣(39)などがいます。彼らの存在はチームに安心感を与えてくれると思います。
森岡隆三:1975年10月7日生まれ。元サッカー選手。日本代表及びキャプテンとして、2002年の日韓W杯に出場。現在、清水エスパルス・アカデミーヘッドオブコーチングを務める。